2006年11月26日

ウォーカーズ〜迷子の大人たち〜 第3回

『目覚め』(11月25日放送)

「誰もが自分の道を探していた。
 修行の土佐、足摺岬。
 身投げする進藤夫婦を救った日、
 僕にも事件が起こった。」


父徳大(市川左團次)の危篤の知らせに、徳久(江口洋介)と
翔子(戸田菜穂)は、実家に駆けつける。

通夜が終わったばかりの寺。
間に合わなかった・・・。
「いい通夜だった。
 年も年だったからな。大往生やった。」
顔見知りの住職が言う。
「話がしたかったよ・・・。
 親父さ、」
「徳久!」
「はい!」
その声に驚く徳久。
亡くなったのは父ではなかった。
「よ。」
「・・・親父!?」「なんだよ、元気じゃないか。」
「一時は大変だったのよ。血圧がパーっと下がっちゃって。」と母。
「そんでワシがピンチヒッターじゃ。」と住職。
「もうお通夜の予約入れちゃってたからね、大森のおばあちゃんの。」
「紛らわしいんだよ・・・。
 親父はもういいの?」
「点滴一本打ったらピンピンしちゃってね。」

診察に来ていた医師が、容態は安定しているが、
くれぐれも安静にしているようにと告げる。

「どうだい、お遍路は。」父が徳久に聞く。
「ああ、楽しくやってるよ。
 いろんな人に会えるし。
 ・・・変わった人に会ったな。
 錦札を持った先達さんで、名前は坂田っていうんだけど、」
「坂田・・・
 坂田っていうと、あの坂田かな。
 年は60ぐらいで、ヒッピーのような。」
「そうじゃない!?」と翔子。
「とっても変わった人だよ。
 見てないようで、人のことよーく見てるんだ。
 いい加減のようでどっか真剣で。」と徳久。
「それだ!」
「お知り合いなんですか?」翔子が聞く。
「知り合いというほどのものでもないが、
 遍路に行くとよく会うんだよ。
 最初にあった頃は確か、まだベトナム戦争をやっていたな。」
「そんな前からですか!」
「いろいろ背負っているんだよ、あの人も。
 気が向いたら話してくれるだろう。
 どうだい、せっかくだから一杯やろうか。」
「じゃ、私、支度してきます。」翔子が席を立つ。
「お、おい。」父と二人になると何を話していいかわからず
徳久は焦る。

父と酒を飲む徳久。
「お前は、写真でしか知らんが、
 わしには年の離れた兄貴がいてな。
 子供の頃から、寺は兄貴が継ぐと決まっていた。
 父親が亡くなると、25で兄貴は住職になった。
 その頃俺は、大阪の大学に行って、
 羽を伸ばしておったよ。
 だが、兄貴が死ぬと呼び戻された。
 檀家や親戚の前に引っ張り出されて、
 寺を継ぐと言わされた。
 真っ平だったよ、坊主になるなんて。
 お前は俺に似てるんだ。」
「じゃあ、どうしてあんなに口うるさく言ってたんだよ。」
「わかるからだよ、お前の気持ちが。
 だが、寺を継いでもらわんと困る。
 好きで言っていたわけじゃないさ。」
「・・・親父。
 言わなくちゃいけないことがあるんだ。
 嘘をついていたよ。
 寺を継ぐなんて言ってたけど、
 まだそんな気持ち固まってないんだ。
 ごめん。悪かった。」
「わかってたよ。
 お前は昔の俺だからな。
 嬉しい嘘だよ。
 親父のためについてくれた嘘だ。」
そう言い微笑む徳大。
「15年、俺帰ってこなかったじゃないか。
 その間、何考えてた?」
「いつかこうやって、酒を飲むことだよ。」
楽しそうに笑う徳大に、徳久も嬉しそうに酒を注いだ。
「好きにしていいぞ。
 俺のことや、檀家のことは考えんでいい。
 心の底から、思うだけのことをしろ。」
父に言われ徳久は・・・。

徳久の嘘を見抜いていた徳大。
父の言葉、父の微笑みがあったかくて、切ないです。


台所では、道代が翔子と話していた。
「あなた、どうしてお遍路に行ったの?」
「取材ですかね。
 持込用の原稿書かなきゃならないし。」
「建前はいいからさ、本音はどうなの?
 徳久を追いかけて行ったの?
 あの子がそんなに好き?」
「意地が悪いですね。答えにくいですよ。」翔子が笑う。
「意地が悪いわよ。
 一人息子の、母親なんてものは。
 気をつけなさい。
 答え方で、値踏みしているんだから。」道代も微笑む。
「・・・確かめに行ったんです。
 本当に、徳久さんと結婚していいものだろうか。」
「そう。それでわかったの?」
「どうかな。大体徳久さんはっきりしないじゃないですか。
 お寺を継ぐのかどうか。」
「そうよね。それを早く決めてもらわないとね。」
「口では継がないって言ってますけど、
 お父さんのこと、すごく大事に思っているみたいだし。」
「そう。どうしてそう思うの?」
「話がしたいって言ったんです。
 15年口も利かなかったけど、もっと話せば良かったって。」
「そう・・・あの子がね。
 良かった!
 もうお寺なんか、継いでも継がなくてもいいわ。」
「え?そうなんですか?」
「だって、お寺継いだって、徳久、幸せになるかどうか
 わからないじゃない?
 お遍路に行った甲斐があったわね。
 そう思ってくれたんなら。」
「・・・お母さんは、この寺より、徳久さんの方が大事?」
「そりゃそうよ、母親ですもの。 
 あなたは?」
「え・・・」
「あなたの人生より、徳久の方が大事?」
「・・・」

翔子は一人酒を飲んでいた徳久に声をかける。
「お父さんと話せたの?」
「15年のうち、半年分ぐらいは取り戻せたかな。」
「私もお母さんと話した。」
「なんだって?」
「女の勝負ね。恋人の母親と喋るの。
 宿題もらった感じ。」
「俺もだよ。
 寺を継げって怒鳴られるより、
 厳しい言葉を貰ったよ。」
「・・・ねえ、子供の頃から何百回もお葬式見てると、
 どんな大人に育つの?」
「俺はさ、目の前ばっかり見るヤツになったなー。
 いつか死んじゃうって思ったらさ、
 先のこと考えるのがバカらしくて。
 寺から逃げ出すことばかり考えてたな。
 どんな人間になろうかなんてちゃんと考えたこともなかった。
 そこを突かれたよ、親父に。
 明日で終りだ。」
「え?」
「俺の夏休み。
 このまま東京にもどるよ。」
「延長すれば?あと3週間。
 お遍路まだ半分よ。」
「そうはいかないよ。
 俺はサラリーマンだしさ。」
「徳久はいつもそうだね。」
「何がだよ。」
「忙しいから、仕事があるから、サラリーマンだから、
 そう言って答えを出さずに大事なことから逃亡しちゃうの。」
「・・・」
「お寺のことも、お父さんのことも、
 そうだったんじゃない?
 私はもう少し歩くわ。
 とことん考えたいからね。
 お休み。」
「・・・おやすみ。」

「きっついなー、アイツ。」

親たちの言葉を真剣に受け止める子供たち。
「宿題」という受け止め方がいいですね。

・・・ねえ、子供の頃から何百回もお葬式見てると、
 どんな大人に育つの?」

翔子がそう聞いたのは、自分が徳久と結婚した場合、
生まれてくる子供たちのことを考えたのでしょうか。


隆彦(三浦友和)は、靖子(風吹ジュン)に言われた
「逃げてばっかり!」
という言葉を考える。

その頃靖子は、隆彦に言われた
「俺がただ気に入らないってだけだろう!」
という言葉を考える。

「本当に、帰るつもり?」靖子が隆彦に聞く。
「ああ。帰るよ。」
「もったいないじゃない!
 せっかくここまで一緒に歩いてきたのに。」
「一緒にいることなんかないよ。
 もうこれ以上。
 お前は俺を必要としていないんだ。
 東京へ帰るよ。
 会社は俺を必要としてくれているんだ。」

エリとヒロシが心配して靖子に声をかける。
「しょうがないのよ、もう。
 結局は、私たち、ここまでだったのよ・・・。」

徳久は3週間ぶりに東京の会社に戻る。

翔子はお遍路に戻ると、エリやみんなが大歓迎して迎えてくれた。

「よー。みんな久しぶりー!
 今日からガンガン働くよー。」
張り切る徳久だったが、自分のプロジェクトが2週間前倒しになり、
そのせいで同期の前田の企画に変わっている事に衝撃を受ける。

隆彦が帰ってしまったことを知り驚く翔子。
前日、隆彦たちは進藤夫妻を励まそうと、居酒屋に飲みにでかけた。
「あなた方が一歩歩いているうちに、
 息子さんも一歩前進しているはず。
 僕なんか、万事それで上手くやって来た。
 親の背中を見て子供は育つって言うじゃないですか。
 そういうことなんですよ。
 ほっといたって二人の息子は立派に独立してくれました。」
その言葉に、靖子の怒りのマグマ爆発!
「どこが万事上手くやったのよ。」
「何だよ・・・。」
「じゃあどうしてヒデアキは結婚式にも呼んでくれなかったの?
 私には来てほしかったけど、
 私に言うとあなたが来るから、言えなかったんだって。
 行きたかったわよ、息子の結婚式くらい!!」
「蒸し返すなよ、今更。」
「軽蔑しているのよ、あの子たちはあなたを。
 いつも逃げたから。」
「・・・」
「ヒデアキが学校でいじめられたときも、
 タカシが女の子を妊娠させちゃった時も、
 あなた逃げたわ。
 自分で解決すればいいって。
 今だってそうよ!
 40日夫婦で、ゆっくりちゃんと話そうって。
 でも私の言うこと聞いてくれないじゃないの!
 逃げてばっかり!!」
「・・・お前こそまともに話をしろよ。
 何が不満なんだ。
 お前は一体何がしたいんだ。
 日本語教師か?友達のブティックを手伝うことか?
 ほんっとにしたのか、それ。
 全部思いつきだろ?
 本当にしたいことなんか、何もないんだよ。
 俺がただ気に入らないってだけだろう!」
そう言い席を立つ隆彦。
「あなた!」
「これ以上、一緒にいない方がいいな。
 感情的になってお互い傷つけあうだけだ。
 俺は明日、東京に帰るよ。
 おまえはみなさんと一緒に歩けばいい。」

靖子はその後、もう1度話そうとホテルのロビーで隆彦を
待ったが、引き止めることは出来なかった。

寺島夫妻にも、いろいろあったんですね・・・。

東京。
徳久は前田を問い詰める。
「どういうつもりだよ。 
 スケジュール2週間前倒しにするなんて。
 それに何だよ、あのモデル。
 ショーアップする必要なんてないんだよ。
 これで良かったんだよ。
 機能をストレートに伝えれば勝てる商品なんだ。」
「お前会社をわかってないよ!」
「なんだと?」
「状況は刻一刻と変わっていくんだよ。」
「じゃあ俺に連絡しろよ!
 俺のプロジェクトだぞ。」
「偉そうなこと言うなよ!3週間も休んでおいて。」
前田はそう言い部屋を出ていった。

そこへ、本部長がやって来た。
「これも全ては、副社長のご支持でね。
 秋には、ナンバーポータビリティーっていうのが始まるだろ?
 おまけに、よそから強力な新製品が出てくるって情報が
 入ったんだよ。
 ま、我が社としても正念場だからさ。」
「わかってましたよ、そんなことは。
 だからそれでも勝てる機能をですね、」
「守りきれなかったよ、君のことを。
 3週間休暇取ったっていったら、
 この大事な時に何してるんだって、
 副社長、頭から湯気出しちゃってさ。」
そう言い笑い飛ばす本部長。
「休めって言われたの、本部長ですよ!
 人事からも言われてるって。」
「えー。俺、そんなこと言ったかなぁ。
 言うはずないよ、この大事な時に。」
「・・・」

前田が徳久を呼び出す。
「そりゃ、何度もお前に連絡しようと思ったよ。
 でも人間って弱いなー。
 俺、ここが勝負どころだって思っちゃったんだよ。
 本部長になれるか、お前の昔の上司の寺島さんみたいになっちゃうか、
 自分の手柄にしたかったんだよ。
 ずっとお前に溝開けられているから。
 会社って、そういうとこだよ。
 立ち止まったら負けなんだよ。」

翔子は坂田に聞く。
「カメラマンだったんですか!?」
「・・・ああ一応な。」
「で、ベトナムに行ったんだ。」
「何で知ってるの?誰に聞いた?」
「徳久の、お父さんから。」
「ああ。
 まあ、若かったけんのー。
 見得欲、出世欲、ずいぶん、エグイ写真も撮った。」
「じゃあ、何で辞めたんですか?」
「そりゃ・・いろいろあってな。」
「ベトナムで?」
「うん。」
「何があったんですか?」
「ま、そのうちにな。」

徳久は、デザイナーの会社に謝罪に行く。
「本当、申し訳ない。
 パンフレット、全部やり直しになっちゃって。
 これ、みんなで食べて。」ケーキを二箱差し入れする。
「いやー、徳久さんは信じてたんだけどな。
 デザイン守ってくれるって。
 ま、いなかったからしょうがないですけどね。
 
 あ、そういえばさっき、寺島さんが挨拶に来ましたよ。
 来月からよろしくって。」
「え?本当?
 旅行行ってるんじゃなかったかな・・・。」
「仲良くやろうなって言われても困っちゃうんですよね。
 所詮ハンコウ押すだけのお飾り部長なんですから。
 寺島さん、あの人(初老の男性)の後釜で来るんですけどね、
 見ていると寂しいもんですよ。
 昼飯はいつも一人だし、
 することないから、いつも資料探しばかりしてる。」
「・・・」

四国第三十九番・延光寺。

「もしもーし。
 私はご両親の友人の坂田というもんです。
 一緒に歩こうねー。
 四国へ来ーや。
 来んとバチが当たるぞえー。」

坂田の入れたメッセージに微笑む進藤夫妻。
「息子なんかに負けちゃいられませんよ。」
寺島夫妻はすっかり元気を取り戻していた。

それとは反対に、靖子は夫のことを考えていたのか、
足を踏み外し転んでしまう。
そんな靖子を心配そうに見つめる翔子。

「考えるときは歩く癖がついていた。
 出世の為に副社長にゴマをする本部長や、
 隙を見て僕を追い越そうとした前田が問題なのか。
 いや・・・そうではない。
 彼らを見て、僕は何だかとても悲しい人間たちに
 見えてしまった。
 サラリーマンのくせにそう思ってしまった、
 僕の心が、問題なのだ。」


徳久は、以前隆彦に連れていってもらったスナックへ行ってみる。
「何となく来ると思ってたよ。」隆彦がいた。

「今日挨拶に行ったよ。」
「ええ、聞きました。」
「塩田さんに会ったかい?俺と入れ替わりで辞める。」
「お見受けした、だけですけど。」
「やることないらしいんだ。
 いるだけでいいっていう。
 いるだけで、親会社のパイプになっているからいいんだとさ。
 退屈ですねって言ったら、
 ご褒美だと思えばいいって言われた。
 今まで一生懸命働いてきたご褒美に、
 何もしなくても、給料もらえる。
 いやぁ、僕はそれは、そう思えるかなって言ったら、
 一月もしないうちに、そうなるって言ったよ。
 そう思わなきゃ自分に対して説明がつかないって。
 無論わかっていたよ、そんなことは。
 でもいざ、その立場になってみるとな。
 君の同期のヤツがいったことは正しいよ。
 立ち止まったら負けなんだ。
 でもな、走り続けてもこんなもんだよ。
 カッコ悪いよー。
 女房に、会社は俺を必要としているなんて言っちゃったんだ。
 女房もわかってたんだよ。
 俺に他に、居場所がないってことをさ。
 離婚の話だって、俺を奮い立たせようと思ってしたんだろう。
 それを、俺は真に受けちまってさ。」
「俺は二人の自分を見ましたよ。」
「え?」
「上司に気に入られようと、必死になっている前田は、
 ちょっと前の俺です。
 重役に登ろうと必死に走っている本部長は、20年後の俺です。
 どっちもイマイチですよね。」
隆彦が微笑む。
「あ、今日おもちゃ屋でさ、こんなの買っちゃったよ。」
「鉄人28号!」
「飾ってあるの見たら無性にほしくなっちゃってさ。
 こういうのって、幼児退行かな。」
「逃避じゃないですかね。
 奥さんのこと考えすぎて、
 考えるのが嫌になっちゃったんじゃないんですか?」
「夢があったもんなー、この頃は。
 野球の選手になりたかったんだよ。
 こんな大人になるとは、夢にも思わなかったよ。
 あの頃の俺が、タイムマシンに乗って今の俺に会いに来たら、
 きっとがっかりしちゃうよ。」
「大抵の大人は、そうなんじゃないですかね。」
「そうかな。」
「みんな、こんなはずじゃなかったと思いながら、
 年をとっていくんじゃないんですか?」
「・・・悲しいな。」
「どうすればいいんですかね。」
「どうしたらいいのかな。。。」

泥酔した靖子を部屋に運ぶ翔子たち。
「亭主連れてこーーい!」と叫ぶ靖子。
エリが靖子の怪我の手当てをする。
その手際の良さに驚く翔子。
「私、看護師なんですよ。」
「ナースが何でお遍路に?」
「ま、いろいろあるんですよ。」エリが笑顔で答える。
「私はねー、一人でも生きていけるわ。
 やりたい事がいっぱいあるから。」と靖子。
「何がやりたいんですか?靖子さん。」翔子が聞く。
「まずお家を売って、マンションを借りるの。
 吉祥寺!」
「いいですね。」「それから?」
「犬を飼うの。
 ダンナ犬が嫌いだったから。」
「それから?」
「洋服!
 もう誰も、無駄遣いだなんて言わなーい!」
「それから?」「もうないの?」
「・・・わかんない。
 誰なんだろう、私・・・。
 何を一番したい人?」
靖子を心配そうに見つめる翔子・・・。

会社でパソコンを見つめながら、お遍路していた頃の自分を思う徳久。
「・・・決めた!!」

「また三週間、休む!?」驚く本部長。
「はい。有給届けはもう出しました。
 ギリギリ残ってましたから。」
「君、わかっているのかな。
 自分が何をしようとしているのか。」
「はい。そのつもりですが。
 あ、そうだ。来週副社長との懇親会がありましたよね。
 発表会の慰労を兼ねて。」
「そうだよ!君も一応、メンバーに入ってるよ。」
「それも出られませんねー。 
 副社長によろしくお伝え下さい。それじゃあ、失礼します。」
「三週間も、何しに行くんだ!?」
「考えに行きます。」
「何をだね?」
「自分が誰かってことですかね。」

「脱落だな、あいつは!」
本部長が呟く。

「そして僕は、足摺岬に戻った。
 ここから再び、歩きはじめるのだ。」


四国第三十八番・金剛福寺で徳久は隆彦と再会。
「寺島さん!
 歩くんですか?」
「ああ。
 会社や仕事も、夫や父親の役割も、
 金の心配も見えや外聞も、
 そういったもん全部捨てたら、俺が何に残るか、
 考えたくなったんだよ。」
「わかります!」
「今までは女房に引きずられて嫌々歩いていたけど、
 今度は、自分の為に歩くよ。」
「俺もです!
 今度は親父の為じゃなく、自分の為に!」
「連中どの辺かな。追いつけるかな。」
「追いつけますよ!気合が違うから。」
「よーし。」
二人が再スタートする。

「お遍路が、なぜ白装束を着るのか、
 その意味がわかった。
 世間の垢にまみれた己は、
 とりあえず死んだことにしろ。
 多分、そういうことなのだ。

 世間を捨てれば心細い。
 糸の切れた風船のような気持ちになる。
 その時、金剛背に記された、"同行二人"が心強い。
 お遍路は、一人で苦しむものではない。
 いつも空海が、一緒に苦しんでくれている。」


ヒロシがエリに聞く。
「エリちゃん、ナースなんだって?」
「・・・やだね、男は。
 ナースって聞くと途端に目の色変えるのよ。
 合コンしないからねっ!!!」

四国第四十三番・明石寺。
オニギリを食べながら坂田が言う。
「ワシの、お遍路やってていつも思うんじゃけどの、
 八十八箇所っていうのはよー出来とんのー思うとんじゃ。
 発心の阿波、修行の土佐、菩提の伊予、そして、涅槃の讃岐。
 修行の土佐を終えて、菩提の伊予に着いたときは、
 なんかこう、穏やかな気分になっているんじゃのー。
 ほんまによー出来とるわ。」
坂田の言葉に感心する一同。

その頃、徳久と隆彦は、四国第四十二番・仏木寺を出発。

「なぜか無性に、翔子に会いたい。
 僕が東京で感じたことを、翔子はわかってくれるだろうか。
 心の底から思うこと。
 僕にとってそれは何だ・・・。
 翔子にとっては、何だ・・・。」


「おい徳久、携帯持ってるか?」
「おいてきました。
 持ってきたら会社のこと忘れられないと思って。」
「俺もだ。
 靖子どうしているかなと思ってな。」
「意外に、奥さんなんじゃないんですか?」
「何が?」
「全部捨てて最後に残るもの。」
「ばかやろう。そんなわけないだろう。
 そんなわけないよ。
 あんな、めんどくさい女房!」

四国第五十一番・石手寺。
寺を出たところで、靖子が倒れてしまう。

宿で休む一行。
医者によると、靖子には脱水症状が見られ、2、3日ゆっくり休んだ方が
いいらしい。
「でも良かったわね。みんながいてくれて。
 私たちもね。」
「いい人に、助けられるよね。お遍路というのは。」
進藤夫妻が言う。
「私も嬉しいです。少しは役に立てて。
 こんな気持ち、久しぶりだな。」とエリ。
「でも、看護師さんしてたら毎日そうでしょう?」と翔子。
「そうでもないの。慣れちゃうの。
 銀行員がお金の感情したり、
 そういうことと同じみたいな、
 当たり前のことになっちゃうの。
 人が死んでいくことも。
 友達がね、入院してきたの。
 小学校の時に一番仲の良かった子。
 偶然だったの。私が担当になって。
 もちろん、私は直接治療なんてしないけど、
 この子は絶対元気にするぞって思った。
 夜中眠れなかったら、話し相手になろうと思った。
 当番じゃないのに、宿直もしたの。
 痛い病気だった。苦しんだんだ、彼女。
 私手を握って励ました。
 絶対治るよ、私が治すよって。
 だけど・・・二月入院して・・死んだの。
 私泣いたわ。
 彼女の妹より。」
「それでお遍路しているのね。
 彼女助けてあげられなかったから。」と翔子。
「違うの。
 次の日になったら、私はもう彼女のことを忘れていたから。
 大事な人が死んだのに、御金を数え終えたみたいに、
 忘れていたから。
 心が変になっちゃったの。
 人が死んでいくのを見すぎて。
 だから取り戻したいの。
 当たり前の気持ち。
 命が重たいんだってこと。
 そうすれば、この仕事、やっていけると思うから。」
そう言いうつむくエリ。

「エリちゃん、昔、ベトナムで戦争があったのは知ってる?
 ワシの、あそこで、写真撮ってたんよ。
 まあ若気の至りっちゅうかの。
 絶対スクープものにして、全世界に発信しちゃろうって、
 意気込んでよ。
 初めの頃はファインダーに映るもんみーんな衝撃的じゃった。
 シャッター押しまくった。
 じゃがよ、慣れっちゅーのは恐ろしいもんじゃのー。
 エリちゃんじゃねーけども、
 人が死ぬっちゅーことに、だんだん鈍感になりおるんじゃ。
 しまいにはもう、死体ゴロゴロしてる中、
 パンくわえて、歩きおったもんな。
 そんな時にの、ある、ゲリラの村を、
 アーミーが総攻撃するっていう情報が入った。
 これはもう、久しぶりに、すげーネタものに出来るって思ってよ、
 腹空かした犬みたいにジャングルで待ちおった。
 だけどの、なんかいつもと様子が違うんだ。
 どうみてもその村、女と子供しかおらんのじゃ。
 またその子供がかわいいんじゃ。
 日本の子供と似たような遊びしておってよ。
 恥ずかしいなーって、思いおったその瞬間によ、
 このあと起こることを思ったら急に体が、
 ブルブル震えだして、
 ものすげー怖くって。
 体がどうにも動かんのじゃ。
 そのうち総攻撃が始まりおった。
 子供が、おかあちゃんたちが、ボロボロ殺されていきおる。
 棒切れみたいに、突っ立っておっただけじゃ。
 見殺しじゃ・・・見殺しに、しとったんじゃのう・・・。」
涙を拭きながらそう語る。
「もしな、ほんまもんのカメラマンじゃったら、
 どんなことがあっても、シャッター切っとった。
 ピントがボケていた、そりゃワシ出来んかった。
 ワシにいはもうプロとしての、覚悟ができてないんじゃ。
 だけどよ、エリちゃんは偉いのー。
 ちゃーんと人を助けちょる。
 ワシなんかよりもずーっとしっかりした考え方しちょる。
 うん。」
坂田はそう言い席を立った。

「坂田さん、ありがとう。
 私、本物になるよ。」エリが呟いた。

布団で横になっていた靖子も、坂田の話に聞き入っていた。

雨が振ってきた。
「ちょうど良かった。
 僕達も少し休めってことですよ。」

その頃、隆彦と徳久は黙々と雨の中歩いていた。

進藤夫妻が一行を離れることになる。
「本当に、ありがとうございました。
 生きる力をいただきました。」と和江。
「行かせてください。
 今なら、歩いていける気がするんです。」
「ご無事で。」翔子たちが言う。
「ご縁があったらまた、お会いしましょう。」
英二が坂田を見詰めて言う。
「財布取られんよう気いつけや。」と坂田。
一足先に、進藤夫妻が宿を出ていった。

窓から外の景色を眺める靖子。
「雨の日、好きなのよね。」
「どうして?」翔子が聞く。
「晴れていると落ち着かないじゃない?
 外のみんなが、私より楽しいことをしているような気がして。
 そこがダメなのよね。いつも比べちゃうの。
 自分だけの幸せでいいのにね。」
「・・・怖くなってきちゃったな、私。」
「何が?」
「結婚とか、夫婦になることとか。」
「そりゃそうよね。
 私たちみたいな夫婦見ちゃったら。」
「ていうか全然わかんなくなってきちゃった。
 私と徳久って、どうして夫婦になろうと思ったんだろうとか。
 やっぱり私は、徳久の幸せより、
 自分の幸せの方が大事なんじゃないかとか。
 そもそも違う人間同士が、一緒に暮らして、
 上手くいくはずないのになーとか。
 お遍路して、自分見つめすぎちゃったのかなー。」
翔子の言葉に微笑む靖子。
その時靖子は、街を歩く隆彦と徳久の姿を見つけ・・・。
そして、嬉しそうに微笑んだ。

「あなた!!」
靖子の声にはっとする隆彦。
「靖子!!」
靖子が、外に飛びだしていく。

「おう!」徳久が翔子に声をかける。
翔子は少し複雑な表情を浮かべたあと、笑顔で手を振るのだった。

旅館の玄関。
「あなた!」笑顔で隆彦を迎える靖子。
「戻ってきたよ。」
「うん!」

靖子は雨に濡れた荷物や上着をタオルで拭いていく。

徳久の姿に驚く一行。
翔子も部屋から降りてきた。
「翔子。」
「うん、お帰り。」
翔子はそう言うと、部屋に戻ってしまった。

「追いついたと思ったのに、
 心の距離は離れていました・・・。」




みんな、良い方向に向っていますね。
己と向き合い、それぞれ答えを見つけていく。

坂田さんの過去と、エリの過去。
人の死に慣れ過ぎてしまったこと。
心が、壊れてしまった、というエリの言葉。
そんな自分を変えようと、お遍路にやってきたエリは
とても前向きで。
坂田さんは自分よりもずっと若いエリに、教えられた。

家族のことは妻に任せてる、という形で逃げていた隆彦。
自分が本当は何をやりたいのか見つけられず、周りに影響されて
いた靖子。
この二人も、今度こそちゃんと向き合い、答えを見つけられそう。

年齢とか、男女だとか、そういうこと関係なしに、
人対人として、影響を受けながら、答えを見つけ出していく。

真剣に考えれば考えるほど、答えがわからなくなる翔子。
彼女が出す答えは・・・。

生きていく上で、仕事は大切。お金も大切。住む場所も大切。
食べることも大切。
最低限あれば何とかなるそれらの物も、欲という感情が、
もっと、もっとと、上を目指す。

「全部捨てて最後に残るもの。」
自分から欲を捨てていったときに、最後に残るのは・・・。
多分それは子供だったり家族だったりするのだろうけれど、
お遍路してみたとしたら、どんな答えを見つけるのかな。

次週、最終回です。



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キャスト

山下徳久(37)…江口洋介
 携帯電話メーカーの開発チーム・リーダー。
 田舎の父の病気をきっかけに、八十八ヶ所を巡る旅に出る。
 様々な人々との出会いの中で、人生を考えていく…。

西尾翔子(33)…戸田菜穂
 フリーライターで徳久のフィアンセ。
 結婚を目前にして、徳久が実家の寺を継ぐ問題が起きて、
 自らも徳久のお遍路に同行する。

山下徳大(63)…市川左團次
 徳久の父。徳島の寺の住職。
 大腸ガンで余命半年を宣告され、家を飛び出したきりの徳久と
 再び向き合うことになる。

山下道代(61)…加藤登紀子
 徳久の母。
 彼女がついた嘘「徳久が寺を継ぐ」の言葉で、ドラマは大きく
 展開していく。

寺島隆彦(58)…三浦友和
 徳久の最初の上司。
 団塊の世代。定年記念の歩き遍路の旅先で、徳久と再会。
 そこで妻・靖子から離婚の問題を突きつけられ、愕然とする。

寺島靖子(56)…風吹ジュン
 隆彦の妻。
 定年を迎えた夫を四国の歩き遍路の旅に誘う。
 実はこれからの人生を共に歩けるかどうかを考えるための、
 覚悟の旅であった。

進藤英二(60)…森本レオ
 元教員。
 30歳を越えても家に引きこもる息子に悩み、
 同じく元教員の妻と二人、重大な決意で四国にやって来る。

進藤和江(59)…鷲尾真知子
 英二の妻。
 パラサイトの息子を育ててしまった事を心から恥じている。
 徳久たちとの出会いによって、夫婦は生きる力を取り戻していく。

エリ(23)…ベッキー
 看護師。
 人の死を間近に見過ぎた事で心のバランスを壊してしまい、
 四国にやって来る。

ヒロシ(27)…瀬川亮
 自称ホスト。
 髪を染めた現代風の青年だが、旅の中で深い哀しみを背負った
 半生が浮かび上がっていく。

坂田洋平(62)…原田芳雄
 八十八ヶ所を回ること、228回目。
 空海の生まれ変わり?!のような謎の大先達。
 徳久たちの道中に首を突っ込んできては、何かと世話を焼き、
 深い影響を与えていく。


スタッフ


江口洋介さんの主な出演作品


17:25 | CM(3) | TB(0) | ウォーカーズ | Edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちーずさんこんばんは、取り合えず徳大が元気でよかったです!やはり寺を継ぐことより音信不通の息子との仲直りが目的でしたね。

三週間の休みをもらい遍路にでた徳久は戻る場所をなくしました、困っているから戻れの電話がないということは歯車のひとつにもなっていないって事ですよね!追加の休暇届けと携帯電話を持たないで戻る姿は退職を決めて寺を継ぐ決心ですかね、それとも会社がなんとか連絡してくることに賭けたのかな

坂田はカメラマンとしてプロの意識を失ったのですね、攻撃の情報を知りながら村人に教えられなかった、何度遍路を繰り返しても迷路から抜け出せない辛さが伝わりました、旅の終わりにシャッターを切る坂田がみたいです!一緒に歩いた皆の笑顔を…

進藤夫婦がさきに行ったことが気になりました、前回の皆の励ましだけで立ち直ることが出来たとは思えません!最終回で坂田の電話で追いつく息子の姿は見れるのかな?それとも弱音をはく息子の留守電だけかな?
 
発心の阿波、修行の土佐、菩提の伊予、そして、涅槃の讃岐。ちーずさんよくこんな言葉が文字に出来ましたね!凄すぎます。
Posted by けた at 2006年11月26日 20:08
ちーずさん こんにちは。
いや〜、土曜日はまいりましたね。わたしは「たったひとつの恋」を録画して、阿部ちゃんのドラマを見て、「ウォーカーズ」はちーずさんのお世話になることにしました。ありがとうございました。阿部ちゃんのドラマは怒りと悲しみと慈愛に満ちた濃密な人間ドラマでよかったです。そして、「たったひとつの恋」を一回パスして「ウォーカーズ」を録画すればよかった。レビュー読んでみて、「あ〜、やっぱり見たかった!」と思いました。
Posted by マンデリン at 2006年11月27日 19:34
ちーずさん、こんばんは。
出張だったので、徳久が東京に帰ったところからしか見られず、前半のいい部分を見逃してしまいました・・・
毎回考えさせられますね。
私にとって全てを捨てて最後に残るのは何だろう…
家族に損得なしでつきあえる友人に趣味かな…
今回は私の地元で見知った景色も出てきて、撮影風景見たかったな〜とか別の意味でも楽しめました。
四国4県で全4回のドラマなんですね。
あと一回、涅槃の回ですね。
涅槃は「一切の悩みや束縛から脱した、円満・安楽の境地」とか。徳久に翔子はどんな風に悟るのでしょうか。
Posted by しゅじゅ at 2006年11月27日 22:37
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