2008年12月12日

風のガーデン 第十話

『ユーフォルビア』

「先生、先生、
 どうした先生。
 麻薬も効かなくなっちまったか?
 早くこっちに来な。
 こっちは静かで、穏やかなもんだぜ。
 何ためらってるんだ。
 フフフ。
 さあ、おいで・・・連れてってやるからよ・・。」

キャンピングカーで眠っていた貞美(中井貴一)は、
二神(奥田瑛二)に手招きされる夢を見て飛び起きた。
痛みに襲われ薬に手を伸ばす。 

白鳥医院
貞三(緒形拳)にお茶を運ぶルイ(黒木メイサ)。「夕べは、全然寝てないんですか?」
「ありがとう。
 ちょっと、座って。
 岳君はまだ、部屋で、寝てますね?」
「はい。」
「・・・昨日、おじいちゃん、父さんに会ってきました。
 知ってることを全部打ち明けて、二人でゆっくり話しました。
 これまでしてきた仕打ちのことを、詫びて、
 それから、うちへ帰ってほしいと、あいつに頼みました。」
「うちに戻るって、言いましたか?」
「考えさせてくれと、あいつは言いました。
 いずれ帰ってくるでしょう。
 あいつが戻ってきた時、岳君のあの部屋を、父さんの為に
 空けようと思います。 
 あの部屋は、もともと、あいつの部屋で、
 子供の頃から、なじんだ場所です。
 最後の時間を、あの部屋で過ごすのが、多分、一番、
 安らぐと思います。
 そこで、岳君のことです。
 もし岳にとって、あいつがガブリエル大天使であるんだとしたら・・
 天使が死ぬところを、見ることになります。
 これは変だと思いませんか?
 天使は、普通、死なぬのじゃないですか?」
「はい。」
「うん・・。」
「じゃあ、岳に本当のことを言うんですか?」
「言ったらどうかってそれも考えました。
 そう考えて、一晩悩みました。
 だけど・・それは酷ですよ。
 死んだと、信じていた父親が、急に現れて、
 また改めて死ぬっていうのは・・
 いくら何でも酷すぎるでしょう。」
「はい。」
「そこで、おじいちゃんの考えた、シナリオですけれど・・
 上原のさゆりちゃんに、一役買ってもらいます。」
「さゆりちゃんがどうするんです?」
「上原ファームに人手が足りなくて、急遽岳君に、ヘルプを頼むんです。
 それも、緊急のヘルプです。
 明日にでも、彼女に迎えに来てもらって、
 岳君を当分、旭川に置いてもらいます。
 そして、そのあと、父さんをうちに迎え入れます。
 いや・・何か・・三流のドラマのようで、
 はなはだ忸怩(じくじ)たるものがありますが、
 おじいちゃんの考えたシナリオでは・・まあ、そんなところです。」
「いつまで旭川に預けるんですか?」
「それは・・・今年いっぱい、というところでしょうか。」
「・・わかりました。
 すぐ、さゆりちゃんに話しておきます。」
「お願いします。」
「・・・おじいちゃん?」
「うん?」
「病気のこと、本当は知ってるって、父さんに話しちゃいけませんか?」
「・・・話したい、ですか?」
「辛いんです。父さんのこと騙してるみたいで・・辛いんです。」
「いずれ・・父さんも気が付くでしょう。
 敢えて、今言うことはないと思います。
 こういうことは、自然に任せましょう。」
「・・はい。」
「こんなこと、言ってもどうにもならんことですが・・
 昨日、あいつに聞いてみたんです。
 何か、今のうちに、やりたいことはないかって。
 あいつは、花嫁姿の君と、一緒に、腕を組んで、
 バージンロードを歩いてやりたかったと言って、
 笑いました。
 あいつは今、君たちを喜ばすことを一生懸命考えようとしています。
 それだけが、多分、あいつの、今の生きがいです。
 何でもいいから、喜んでやりなさい。
 あいつがこれまで、したくても出来なかったことを、
 何年分を、取り戻させてやろうじゃないですか。
 少しでも、家族の味を、これからの時間で・・・
 送ろうじゃないですか。」
貞三の言葉に頷くルイ。

ガーデンでは貞美が岳の花講義を聞いていた。
「これは、フロックス・ノーラレイ。
 花言葉は、妖精たちの新盆の迎え火、です。」
「なるほど。」
「エキナセア・マグナス。
 花言葉は、アキバの侍女でございます、ご主人様!」
「ハハハ!」
「わかりますか?」
「はい。」
「モナルダ。花言葉は、明るすぎると周りが辛い、です。」
「ハハハ!」
「サクシセラ・フロステッドパールズ。
 花言葉は、死んだおばあちゃんの形見の針山、です。」
「・・・」痛みに耐えられずにかがみこむ貞美。
それに気づかずに岳が続ける。
「あれが、アガスタチ・アニサタ。
 花言葉は、アタイのこと御趣味に合いません?、です。
 ・・・どうかしましたか?」
「大丈夫です。」貞美が立ち上がる。
「ヘメロカリス・ファイナルタッチ。
 花言葉は、天使ミカエルの誘惑。
 ミカエルさんとは、お親しいんですか?」
「・ええ、もちろん程ほどに。」
「クロコスミア・ルシファー。
 花言葉は、インドネシアの迷い鳥、です。」
「すみません・・」
「はい。」
「ちょっと・・呼び出しです。」
貞美は痛みを堪えながら笑顔で岳にそう告げると、
キャンピングカーに戻っていく。

その姿を遠くから見つめていたルイは、
エリカ(石田えり)が心配そうに貞美のことを見ていることに気づく。

場所を移して話す二人。
「ごめんね。
 花屋のトモミに聞いちゃったよ。
 でも、他の人には言ってないから。
 ・・・本当なの?
 そんな時なのに何も知らないで・・
 生前葬なんてやってはしゃいじゃってごめんね・・。
 もう落ち込んじゃったよ、トモミと二人。
 どうしていいかわかんなくてさ・・。
 どうしたらいいってルイちゃん思う?」
「おじいちゃんが父さんに聞いたんだって。
 今、何かやりたいことはないかって。
 そしたら・・父さん何て言ったと思う?
 私の花嫁姿が見たかったって。
 私と腕組んで、一緒にバージンロードを歩いてやりたかったって。
 ・・・でもそればっかりは、どうしようもないし・・・。」
「・・・誰かいないの?」
「誰かって?」
「相手。嫁に行く。」
「いませんよ!」
「いや、本当に結婚なんてしなくていいのよ。
 結婚式挙げるフリだけすりゃいいのよ。」
「どういう意味?」
「・・騙せば。父さんを。結婚するフリして。」
「いやだ・・。」
「冗談で私言ってるんじゃないの!
 ・・誰でもいいから、この際相手なんか。
 新郎の顔して立たせときゃいいんだから。」
「・・・」
「誰か回りに適当なのいない?
 あんたを口説こうとしているヤツとか。」
「いやだぁ!」
「マジに!真剣に考えてみなさい!」
「・・・」
「一人ぐらいいるでしょ?あんたに気があるやつ。」
「・・・」
「それとも私が調達してこようか?」
「・・・一人いるけど・・。」
「どんなヤツ?」
「いやだぁ!」笑い出すルイ。
「どんなやつ!?」
「イヤだ!」

2人は修(平野勇樹)の元へ向かう。
「・・誰なんだよあんた。」と修。
「そんなことどうでもいい。
 この子の保護者。」
「・・・」
「あんたさ、夢、見たくない?」
「夢?」
「そう、夢。」
「どんな夢?」
「この子と、結婚式を挙げる夢。」
「・・・」
「もちろん夢よ!全部夢!夢だから覚めるの!
 そのときだけの一瞬のことで。
 本気にしないでね!
 本気で結婚するわけじゃないんだから。」とルイ。
「やっぱりお前、俺に惚れたな!」
ルイが逃げ出そうとする。
「ちょっと待てよ。」
「違うの違うの。そうじゃないの!そういうんじゃないの。
 その日一日で、夢は覚めるの。」とエリカ。
「一日?」
「そう。」
「一日だけ?」
「そう!」
「・・・結婚式挙げるんだろ?」
「あげるけど式だけ。
 それでおしまい!」
「・・・一日だけってあんた言ったな。」
「そう、一日だけ。」
「ってことは、夜も入るぞ。」
「は?」
「初夜も夢の中に含まれるんだな。」
「エリカさん、行こう!こいつこういうヤツなの!」
「ちょっと待てよ。待てって!」
「離して!!」
「どうした・・」
「わかった、悪かった。おばさんがちゃんと説明する。」
「ルイ・・」
泣き出したルイを心配し、肩に手を置く修。
その手を振り払うルイ。
「最初から、おばさんがちゃんと説明するから。」
「ちゃんと聞いて、修ちゃん!」
「お!修ちゃんって言ったな。俺のこと初めて名前で呼んだな!」
「ちゃんと真面目に聞きなさい!」エリカのビンタが飛ぶ。
「イテ・・」
「これはあくまで、お芝居なの。
 本当の結婚式じゃなくて、偽装結婚なの。」
「偽装?」
「そう。偽装。」
「・・賞味期限を改ざんする、あれか?」
「・・うん。なぜ、そんなことをするかと言うと・・
 あんた口堅い?」
「軽い。」
「エリカさんもう行こう!私もう無理!」
「待ちなさい。
 真面目に聞かないとおばさん怒るよ。」
「・・はい。」
「この子の父親が死にかかってるの。
 ガンなの。
 それももう長くないらしいの。
 今年いっぱい持たないらしいの。」
「・・・」
「その前にこの子の花嫁姿を何とか父さんに見せてやりたいの。
 父さんそれを見たがってるの。
 花嫁姿だけ見せられりゃいいの。
 花嫁と腕組んで、バージンロードを親子二人で歩けりゃいいの。
 花婿なんて誰でもいいの。」
「エリカさん私やっぱ無理・・。」
「ルイちゃん・・」
「父さんを騙すなんて私やっぱ自信ない!」
「あんたの為に騙すんじゃないの。父さんの為に騙すんだよ?」
「・・・」
「ルイちゃん・・」
「わかった。全部わかった。
 そんな事態とは俺・・全然知らなかった。
 引き受けた!ああ、任せてくれ。俺、上手くやる!」
「式だけだよあんた。」
「ああ。」
「初夜はナシだよ。」
「わかった。」
「どうしても初夜がしたいって言うなら・・
 おばさんが相手してやってもいいから。」
「・・いい・・。」

家に帰ったルイはそのことを貞三に報告する。
「茶番です!そんな茶番劇、すぐにバレます!
 不自然すぎます!
 あいつはすぐに見抜きます。」
「見抜かれないように、本気でやります。」
「そういう、バカなシナリオは、ルイさんあんたの、アイディアですか?」
「小玉理髪店の、エリカさんとの競作です。」
「うわぁ、あの人も絡んでますか。」
「でも主犯は私です!」
「このシナリオの欠陥ですけど、
 どうして前触れも無く、そんな唐突に、結婚式を挙げることに
 なったのかってところです。」
「それは、9月の中旬に修ちゃん一家が大垣に引き上げるからです。
 そうなると二人は来年の花の時期まで会えません。」
「うーん。」
「何なら私のお腹の中に赤ちゃんがいるってことにしたっていいです。」
「本当ですか!?」
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
「・・・おじいちゃんをあまり驚かさんで下さい。
 はぁ・・いや、その設定はやめましょう。
 父さんにもそりゃショックを与えます。
 前の方で何とかいけると思いますけど・・・
 いや・・やっぱり茶番です。そこまでやるのはいくらなんでも・・・
 ・・・やりましょう!」
「・・・」
「やるんなら、とことんやりましょう!
 どこか教会でやるつもりですか?」
「いえ、ガーデンで。
 牧師さんには誓いなんて出来ませんから、本当に身内だけで、
 花の間を、父さんと二人で歩こうと思っています。」
「すばらしい!
 で、修君は納得、したんですか?」
「してくれました。」
「あのお父さんのタケさんには?」
「まだ、話してません。
 修ちゃんから話してくれるみたいです。」
「ダメダメ。あの二人で話し合わせたら、すぐに又暴力沙汰です。
 タケさんには、私から話します。」
「お願いします。」
「・・・ところで、再び岳君のことですけど・・」
「さゆりちゃんには、話しておきました。」
「引き受けてくれましたか?」
「いつでも引き受けるって言ってます。」
手帳を調べ始める貞三。
「あ、9月3日がちょうど大安ですね。
 結婚式はこの日にしましょう。
 だから、その前に、岳君を旭川に移します。
 ・・・こんな悪事に、あの岳君を巻き込むわけにはいきません。」
「おじいちゃん・・」
「はい。」
「やっぱりこれは悪事ですか?」
「・・そうとも言えるし・・そうでないとも言えるし・・。
 おじいちゃんには・・わかりません。」

再び二神に手招きされる夢を見ながらうなされている貞美。
「先生・・先生・・
 先生、おいでよ。
 一緒に行こうよ。
 こっちは楽だぜ。
 本当に楽だぜ。」
ガーデンで穏やかに微笑む二神。
「空気は綺麗だし、匂いはいいし。
 フフフフ・・・。」
夢はガーデンから突然オペ室に移り変わる。
そこにも二神が、微笑を浮かべて立っていて・・。

医師たちの中に貞美の姿がないようですので、
 これは自分がオペされているという夢なのか?


「貞美・・貞美・・貞美。」
貞三が夢に魘される貞美を起こす。
「・・・」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。
 すみません・・。」
「痛むのか?」
「・・いえ。」
「大丈夫なら、少し・・外に出よう。
 ここは、空気が悪い。」
「はい。」

「高林医大の、内山という人から、電話があった。
 内山妙子という、看護婦長だ。
 お前のことを心配していた。
 お前に、連絡を取りたいんだが、連絡が取れないと・・
 彼女は言ってた。」
「・・・」
「・・・うちに戻る気には・・まだならないのか?」
「もう少し、ここにいさせて下さい。」
「・・・」
「いずれ、そうさせてもらおうと思います。」
「・・・実は、お前に報告がある。
 甚だ急な話なんだが・・
 実はお前に黙っていた。
 ルイが、近々結婚する。」
「・・・」
「9月3日だ。水曜日だ。
 ・・・伏せていたことは、許してくれ。
 お前のこういう状態を知って、今まで迷ったが・・・
 言い出せなかった。
 相手は、毎年富良野へ来る、石山養蜂の、タケさんの倅だ。
 修君という、元気な若者だ。
 二人とも若いが、愛し合っている。
 9月の半ばには、彼は富良野を離れるから、
 それまでに、式だけ挙げておきたいそうだ。
 いいと、言ってしまった。
 ・・・独断で許可した。
 勘弁してくれ。」
「・・・」
「ついては、お前に頼みがある。
 式っていったって、大仰なものじゃない。
 神様も呼ばんし、本当に身内だけで、風のガーデンでやる、
 人前結婚だ。
 その時、ガーデンの花の中の道を、
 あいつと腕組んで歩いてやってほしい。
 大仰なことは何もしない。
 ただ、歩くだけだ。
 しかしルイには、それが夢だった。
 だけどあの子は、俺に遠慮して、
 そのことをずっと言い出せずに我慢した。
 俺が・・・お前を許さなかったからだ。
 全ては、俺の狭量のせいだ。
 ・・・あいつに、プレゼントしてやってくれんか?
 あいつと腕組んで、バージンロードを、」
「父さん。」
「うん?」
「わかりました。
 喜んでやらせていただきます。」
「あー・・そうかね!
 それは嬉しいね。
 あいつもきっと、喜ぶと思うよ。」嬉しそうに微笑む貞三。
「父さん。」
「うん。」
「一つだけ教えて下さい。」
「何だ。」
「ルイは私の命の事を、知ってるんでしょうか。知らないんでしょうか。」
「いや・・言ってない。」
「そうですか・・。
 安心しました。喜んでやります。やらせて下さい。」
「・・・式が終わったら、うちへ帰ってくれ。」
「わかりました。」
「あ、そのこととは・・関係ないんだが・・ 
 さゆりさんから、どうしてもと頼まれて・・
 2、3日内に、岳が上原ファームに行く。
 しばらくこっちへは・・帰ってこない。」
「・・ルイの式には出ないんですか?」
「そのことだが・・あいつにはまだ言ってない。
 ルイが、結婚するということをな。
 あいつにとってルイは、大きな存在だ。
 ルイがこの家を、去るということを説明するには、
 時間が掛かる。
 だからお前も、そのことには触れるな。
 そのことには触れずに、岳と、さりげなく別れてやってくれ。」
「・・・」
辛い表情から、覚悟を決めたように笑顔を浮かべる貞美。
「わかりました。」

キャンピングカーに戻った貞美は、グラスに生けた
カンパニュラ・ウェディング・ベルとラムズ・イヤーを見つめ・・。

自分の腹にエコーを当てて調べる貞美。
画面に映った映像を見つめ・・。

ベッドに横になり、天井を見つめながら考え込んでいると、
誰かが訪ねてきた。
ルイだ。
「スープ持ってきた。」
「サンキュ。あがれ。」

「はい。」
「ありがとう。じゃあいただきます。」
「うん。」
「・・・美味い!」
「本当?」
「お前料理上手いいんだな。」
「良かった。」
「・・結婚するんだって?」
「うん。おじいちゃんに聞いた?」
「驚いた。」
「ごめんなさい、黙ってて。
 なんか言いそびれちゃって。おじいちゃんに頼んだの。」
「この間の男か。」
「うん。」
「・・・」
「気に入らない?」
「そんなことはない。」
持ってきたピンク色の花を飾るルイ。
「ここに置くね。」
「ああ、綺麗だ。
 なかなか明るくて、優しそうだ。」
「そう見えた?」
「優しいよ、多分ああいうヤツは。
 ・・そっかー。そういうことだったのかー。
 俺に新しい息子が出来るのか。
 あいつが息子か。」
「ご不満でしょうけど。」
「そんなことはない。
 何かお祝いしてやらなきゃな。」
「いいよそんなの。」
「何がほしい?」
「ううん。
 父さんが側にいてくれるだけでいいや。」
「・・・」
その言葉に、溢れそうになる涙を隠すかのようにおどけてみせる貞美。
「ハハハ。」その顔に笑い出すルイ。
「嬉しい事言ってくれる・・」泣き真似をする貞美にルイがまた笑う。
「彼もうじきまた、富良野を離れるんだろ?」
「うん。」
「お前も付いていくのか?」
「ううん。私は行かない。」
「どうして?彼が可哀想じゃないか。」
「いいの。最初っからそういう約束なんだから。
 コップいる?」
「いらない、そのままでいい。」
「彼は花を追って全国を周るから、私は富良野で花を作ってる。」
「そうか。」
「うん。」
「9月の3日だって?もうすぐだな。」
「うん。」
「お前は、どんな衣装を着るのかね。」
「エリカさんに任せてある。」
「・・・エリカって、小玉理容室のエリカか?」
「うん。」
「・・そうか。あいつも結婚のこと、知ってたのか。
 ・・そうか。
 美味い、本当に。」
「良かったー!」

小玉理容室
ぼーっとラジオを聴いていたエリカは、店にやってくる人物に気づき
慌てて仕事をしていたフリをする。
貞美が店に入ってくる。
「あら。」平然を装うエリカ。
「おぉ。」
「散髪?」
「いや。
 ・・・黙ってただろ。」
「何?」
「ルイの式のこと。」
「脅かしたいから黙っててって、あの子から口止めされてたのよ。」
「いつから決まってたんだ?」
「あー、かなり前。」
「生前葬の時にはもう知ってたのか?」
「うん。」
「なるほど。
 君が衣装任されてるらしいな。」
「親しい美容院が貸衣装屋もやってるから。」
「ふーん。和装?洋装?」
「ウエディングドレス。」
「・・そうか。
 その貸衣装屋で、俺の服も借りれるかね。」
「大丈夫よ。」
「そのドレスに合うような、服を一着頼んでくれ。」
「わかった。じゃあ、あんたのサイズ、」
その時、ラジオから流れるDJの声に貞美の動きが止まる。

「それでは今話題の、氷室茜さん、カンパニュラの恋、お聴き下さい。」

「・・どうしたの?」とエリカ。
ラジオから流れる茜の歌声に聞き入る貞美。
「この歌手・・知ってる?」
「氷室茜。今、大ブレークの、カンパニュラの恋。」
「・・・」
胸を熱くする貞美・・・。

キャンピングカーに戻ってきた貞美は、水木に電話する。
「水木か?
 ああ。
 いや・・容態はあまりよくない。
 どうさいじつ痛が出始めている。
 うん・・
 それで頼みだが、申し訳ないがこっちに来て、
 持続的硬膜外ブロックを打ってくれないか?
 わかってる。打ったら家に帰るつもりだ。
 ああ。うちには親父もいるし、
 訪問看護師も出入りしている。
 ・・うん。
 で、9月の3日までにやってほしいんだ。
 9月3日に、ルイの結婚式がある。
 いや、茶番だよ。
 親父やルイが寄ってたかって、俺の為に芝居を打とうとしているんだ。
 ハハ。もちろんさ。もちろん気づかないフリしてるさ。
 せっかくの、みんなの好意の芝居をぶち壊すわけには
 いかんじゃないか。
 だからその時に痛みが出ないように、硬膜外ブロックを頼みたいんだ。
 わかってる。結婚式が無事に終わったら、すぐうちに帰るよ。
 6年ぶりだぞ!」

貞三もルイもエリカも頑張って演じていましたが、
結婚式が芝居だということに、貞美はやっぱり気づいていました。
貞美のためを思っての嘘。
そんなみんなの思いに答えようとする貞美。

水木への電話での一人語りで視聴者に伝える、という表現にも
やられました。



貞美がガーデンに行くと、岳がイライラしながら花の手入れをしている。
そんな様子をしばし見つめたあと、貞美は岳に声をかける。
岳と会うのはこれが最後・・。貞美はそう思っていたはずです。
「おはよう。」
「・・・」
「なんだか今朝は不機嫌そうですね。」
「不機嫌です。」
「どうしました?」
「全く!大人というヤツは勝手で!
 急に旭川に行かされることになったんです。
 上原ファームという親戚のガーデンに。」
「そりゃ偶然だ。僕も呼ばれて急に発つことになったんです。」
「どこにですか?」
「天国です。
 君たちの母さんがいるところへです。」
「・・・」
「何か、母さんに言付けはありますか?」
「・・・僕たちは元気だって、伝えて下さい。」
「わかりました。」
「父さんはまだ、天国に入れないでいるんでしょうか。」
「・・いや。入れる許可がようやく出たようです。」
「じゃあ父さんに、伝えて下さい。
 ルイも僕も、元気で仲良くやってるって、伝えて下さい。」
「わかりました。必ず伝えます。
 父さんもきっと喜ばれることでしょう。」
「それから、それから、それから、それから、
 この花を、おばあちゃんに、渡して下さい。」
「何と言う、花ですか?」
「バーバラ・ポナリエンシス。
 おばあちゃんが、一番大好きだった花です。
 花言葉は、夏の終わりのコンペイトウ、です。」
「・・・父さんが好きだった花を知っていますか?」
「知りません。」
「・・・岳君、あの、黄色い花です。」
「ユーフォルビア・アムジラッサ。
 花言葉は、乙女の祈り、です。
 父さんに渡してあげて下さい。
 それから、それから、それから、」
パニックを起こして走り出す岳。
「岳君!岳君待って!
 岳君!大丈夫!待って!」
倒れた岳を抑えつけ、必死に抱きしめる貞美。
「岳君!大丈夫!
 岳君!大丈夫。大丈夫!大丈夫!大丈夫!」
貞美に抱きしめられた岳は、次第に落ち着きを取り戻していく。
そして貞美は愛しそうに岳を抱きしめる。
貞美の頬を涙が伝う。
気持ちに区切りをつけるように岳を放す貞美。
「・・・岳君。
 いつかの曲をもう一度、ガブさんに弾いてくれませんか?」
貞美はそう言うと、もう一度岳を抱きしめる。
「母さんが好きだった・・乙女の祈り。」
「わかりました。」
岳がハウスへと走っていく。

放心状態で座り込んだままの貞美に、
岳のピアノが聞こえてくる。
涙をこぼしながら聞き入る貞美。

ルイとさゆり(森上千絵)が岳を迎えにきた。
ガーデンを見渡す岳。
「岳。」ルイが声をかける。
「ガブさん!・・・ガブさん・・。」
「・・行こう。」ルイが岳を車に乗せる。

助手席に座りながら、岳を心配そうに見つめるルイ。
「岳!」ルイが窓の外を指差す。
貞美が策に腰掛け、見送っていた。
両手をこめかみに当てておどけて見せる貞美。
岳も真似をし・・。

車が見えなくなると、貞美は空を見上げ・・。

キャンピングカー
水木が持続的硬膜外ブロックを打ちにやってきた。
「じゃあ、行くぞ。」
「頼む。」
痛みに一瞬顔を歪ませる貞美。
ベッドの脇には、結婚式に着ていく礼服が用意されていた。
9月3日(水)
ルイの結婚式、当日・・・。


※あらすじは一部公式HPを引用しています。


ドラマの中に"三流ドラマ""シナリオ"という言葉が使われているところに、
倉本さんの脚本家としての誇り、ドラマへの思いが込められているように
思いました。


友人が仕組んだ生前葬。
そして今度は、ルイたちが仕組んだ結婚式。

貞三が考えた、岳を旭川に出すシナリオ。
エリカとルイが考えた、ルイの結婚式のシナリオ。
どちらの"茶番"にも、貞美への思いが込められていて・・。

"茶番"と気づきながらも、彼らの思いに答えるべく付き合う貞美。
貞三やルイたちも、貞美も、お互いの笑顔の為に・・というのが
切ないです。

「父さんが側にいてくれるだけでいいや。」というルイの言葉に、
そして、富良野を離れていく岳を見送る時に、
貞美はおどけて見せました。
子供たちには笑顔でいてほしい。そんな思いだったのでしょうか。

ガーデンの柵に腰掛けておどける貞美は、本当に天使か
森の妖精のようでした。
あのまま風景に溶けて消えてしまいそうな・・。

同じようにおどけて見せる岳でしたが、その表情はとても悲しげで・・。
そして貞美もおどけながらも実際は泣いていて・・。

ガブさんに抱きしめられた時の岳の表情。
そして、久しぶりにわが子を抱きしめる貞美。
このシーンにセリフはないのだけれど、
貞美と岳のそれぞれの感情がひしひしと伝わってきました。
お互いのぬくもりに、匂いに、なぜか安らいでしまう。
昔感じた懐かしい感触を、お互い思い出し、確かめ合っているような
シーンでした。
岳はガブさんが父だと、この時感じたのではないでしょうか・・。


貞三は、岳のためを思って貞美と引き離すことにしました。
引き離す方も、引き離される方も、どちらも辛い。
でもこれって、本当に一番の選択だったのかな。

以前貞三は、子供たちのためを思って貞美から子供たちを奪いました。
そのことを、ずっと後悔してきた。
今度の決断も、あとに後悔が残らなければ良いのですが・・。

次週、最終回なのですね・・。
岳にも、もう一度貞美と会わせてあげたい。
ガブさんとしてではなく、父として、貞美に岳を抱きしめてもらいたい
です。



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風のガーデン2009カレンダ−





貞三先生の花言葉ポストカード





B001EUGSF6ノクターン/カンパニュラの恋平原綾香DREAMUSIC( C)(M) 2008-11-12by G-Tools



B001HWIC8Mフジテレビ系ドラマ オリジナル・サウンドトラック 風のガーデンTVサントラ ポニーキャニオン 2008-11-19by G-Tools



4652079400風のガーデン―SCENARIO2008倉本 聰理論社 2008-09by G-Tools



B001FADKK6風のガーデンに咲く花々~富良野から~ (Blu-ray Disc)趣味ポニーキャニオン 2008-11-28by G-Tools



貞三の花言葉集
・スノードロップ『去年の恋の名残りの涙』
・プルモナリア・ラズベリースプラッシュ『小学生の淡い初恋』
・プルモナリア・ルイスパルマー『早熟な乙女は、わりとすぐ老ける』
 プルモナリア・ノーザンライツ『オーロラの贈り物』
・ブルンネラ ジャックフロスト『冬の天使の涙の跡』
・スイセンアイスホリス『北風に恋した村娘』

・エゾエンゴサク『妖精たちの秘密の舞踏会』

・ブルーメラ『女王陛下の衣装箱』

・ゲラニウム・ジョンソンズブルー『大天使ガブリエルの哀しい過ち』
・オリエンタルポピー『女の盛りは40過ぎからよっ!』
・リクニス・フロスククリホワイトロビン
  『アルツハイマーの冬将軍が、忘れていった雪の結晶』

・ウェディングベル『孫娘を嫁に出す日』
・チェリーベル『花園の小人の禿かくしの帽子』
・カンパニュララクチフローラ『花言葉は、行きおくれ女の危険な色気』

・デフフィニウム・ブラックナイト『大天使ガブリエルの青いマント』
・エリンジウム=『大天使ガブリエルの贖罪』
・ネペータ・クランディフローラシックスヒルズジャイアント
 (キャットミント)=『大天使ガブリエルの飼い猫』 
 
・バーベナ・ハスタタ・ピンクスピアーズ=
 『どうせあたいは田舎者。街の女にゃなれないの』
・ダイアンサス・ナッピー= 『しのぶ恋ほどばれやすい』

・フロックスノーラレイ=『妖精たちの新盆の迎え火』

第9話
・タリクトラム・デラバイイー
『看護師さんのチラリズム』
・バーベナ・ハスタタ・ピンクスピアーズ
 『どうせアタイは田舎者、街の女にゃなれないの。』
・ポリゴナム
『アノネ、残り物には福って、あれウソよ。
 そうそう、残り物はやっぱり残り物』
・カンパニュラ・ウェディング・ベル
『孫娘を嫁に出す日(ルイがお嫁に行っちゃう日)』
・ベロニカ・ブルーリーゼン
『逝ってしまった冴子の記憶』
・ラムズイヤー
『生まれたばかりの孫の耳たぶ』
・セファラリア・ギガンティア
『かなり目標のラインを下げないと、結局一緒独身で終わる』
・クロコスミア
『モテることと遊ばれることは一寸違う』
・ユーパトリウム
『どうしてアタイの美しさを、みんな認めようとしないンだ』

第十話
・フロックス・ノーラレイ
『妖精たちの新盆の迎え火』
・エキナセア・マグナス
『アキバの侍女でございます、ご主人様!』
・モナルダ
『明るすぎると、周りが辛い』
・サクシセラ・フロステッドパールズ
『死んだおばあちゃんの形見の針山』
・アガスタチ・アニサタ。
『アタイのこと、御趣味に合いません?』
・ヘメロカリス・ファイナルタッチ
『天使ミカエルの誘惑』
・クロコスミア・ルシファー
『インドネシアの迷い鳥』
・バーバラ・ポナリエンシス
『夏の終わりのコンペイトウ』
・ユーフォルビア・アムジラッサ。
『乙女の祈り』


 

キャスト

白鳥貞美 …… 中井貴一
白鳥ルイ …… 黒木メイサ
白鳥 岳 …… 神木隆之介

二神達也 …… 奥田瑛二
二神香苗 …… 国仲涼子

石山 孟 …… ガッツ石松 養蜂経営
石山 修 …… 平野勇樹(新人)

白鳥冴子()貞美の自殺した妻
谷口冬美(木内みどり)貞美の姉
上原さゆり(森上千絵)貞美の姪

老患者 …… 織本順吉
娘 …… 中島ひろ子

小玉エリカ …… 石田えり
佐伯智美(ふせえり)貞美の同級生。花屋
中川()ナメちゃん。中川葬儀社
西本のヒロちゃん。寺の住職

水木三郎 …… 布施 博
バーテン(中村靖日)
宮内明(白石雄大)ルイの不倫相手

氷室 茜 …… 平原綾香

桂木院長(小野武彦)
西 院長(平泉成) 霞ヶ関病院の医師
海野正平 …… 田中哲司 (検事)

内山妙子 …… 伊藤 蘭
内山 …… 利重 剛

白鳥貞三 …… 緒形 拳


第8話
富良野西病院スタッフ(半海一晃)
富良野西病院看護師(須藤理彩)

スタッフ

脚  本 …… 倉本 聰

統括プロデュース …… 中村敏夫(FCC)

プロデュース …… 若松央樹
浅野澄美(FCC)

主 題 歌 …… 平原綾香「ノクターン」(ドリーミュージック)

演  出 …… 宮本理江子

制作協力 …… FCC

制作著作 …… フジテレビ



中井貴一さんの主な出演作品



緒形 拳さんの主な出演作品


10:33 | CM(2) | TB(1) | 風のガーデン | Edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちーずさんこんばんは、取り乱した岳を抱きしめる貞美の涙に自分もボロ泣きでした画面が霞んで見えなかったです!

貞三が貞美にルイの結婚や岳を上原ファームに預ける話をするときの緒形さんと中井さんの芝居が凄いです!内情を知っているからかも知れませんが、嘘を隠すような緒形さん、茶番だと分かっていても貞三の言葉を聴く中井さんが魅せる劇中劇の嘘と優しさの演技に隠されたお互いの気持ちが良く表現されていて…水木との電話で貞美の気持ちを明かす手法も分かりやすいですね!

修とエリカのシーンは笑えました!頼みに行っているのにビンタって〜初夜は流石に自分の世代でも言わないと思いますが…それをどう言葉にすればいいのかも難しいですね!

やはり当初から気になっていた、貞美の岳への告白、貞美と貞三やルイが分かりあえたのは親子の絆、きっと岳も初めから感じていたのかな?今回抱きしめられたことで確証をもった岳、自分も貞美がちょこんと座った姿が消えていく天使にみえました、おどけた姿をマネする岳の寂しそうな姿…残り少ない時間を共有して欲しいです!

夢の中で迎えに来る二神が怖いのと同時に楽になれるという倉本さんの脚本、巨匠のもってくる感動のラストに期待が高まります!
Posted by けた at 2008年12月12日 20:50
 ちーずさんこんばんは。

 緒形さん観れるのもあと一話ですね。一シーン・一シーンかみしめて観てます。

 内容が内容だけによけいつらいんですが、親子の絆の描き方・演技の質の高ささすがだなぁと思って観てます。

 気になる点といえばやはり、貞美の口から娘に病気であるというまで貞三は黙ってるべきだったのではないかと思います。

 自分の娘に芝居されることほど、父親にとってつらいものはないですから、そんなことされたらよけい自分がみじめになってくるのではないでしょうか?

 自分の娘の普通の笑顔が見たいそれだけのことなのに、結婚の芝居までされて・結局その芝居をすることをいってしまったからルイが病気のことを知ってることを教えることになってしまった、好意だとわかってても切なくなってきます。

 貞美がどれほどまでいい人なのか、本当によくわかります。

 岳に関しては、本当に難しいですよね。できることなら一緒にいてほしいですよね。

 けど、二度も父親の死の悲しみをあたえるのは、あまりにもひどすぎるので離れさせなきゃならないという貞三の気持ちもわからなくはないですが、どっちも切ないですね。

 緒形さんは、中井さんに代表作になるよ。と仰ってたそうなので最後がどういう展開になるのか、倉本さんの仕上げ・緒形さんの最後の芝居楽しみです。
Posted by 小次郎 at 2008年12月13日 00:49
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風のガーデン(10)
Excerpt: &nbsp; <br />視聴率は 15.2%・・・前回(16.1)より <br /><br /><br />「ユーフォルビア」 <br />
Weblog: ドラ☆カフェ
Tracked: 2008-12-13 15:34
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