2010年02月08日

君たちに明日はない 第4話

『旧友』

真介に殴りかかった平山は、駆けつけた警官に連行されていく。

真介も事情を説明するために警察へ。
「どうしますか?告訴、しますか?」
「・・・いえ。」
「本当にいいんですか?」
「・・・はい。」
「彼、あなたにリストラされたんですって?」
「・・・はい。」
「まあ、こういう状況でこういうこと言うのも何なんですが、
 彼にも同情すべきところが、あるようですしね。」
「・・・」

陽子と歩く真介。
「平山さん、離婚されたそうです。」
「・・・そうなんだ。」
「今は一人でアパート暮らしらしいです。」
「・・・再就職、上手くいってない、みたいね。」
「みたいです。」

「私も、実は辞表を出してね、今日。」
「辞めるんですか?森松ハウス。」
「そのことをあなたにきちんと伝えなきゃ、と思って。」
「そうでしたか・・。
 でも、プロジェクトの成功で会社から表彰もされたんですよね?
 引き止められなかったんですか?」
「まあね。
 でも、一度こう、胸に湧き上がった会社への不信感って、
 そう簡単に、拭い去れないっていうかさ。」
「・・・」
「でも、さっきの平山さん見たらさ、
 何だか怖くなってきちゃったなー。
 あれが、一つの現実なんだよね。
 特別でも、何でもない、よくある一つの現実。」
「・・・」
二人は夜空を見上げ・・・。

『明日への鐘は
 その階段を登る者が
 鳴らすことができる』

翌日。
真介から平山のことを聞いた高橋社長(堺正章)は、
真介が今回も告訴をしないとわかり、ほっとする。
なぜなら、次のクライアントは信用を気にする銀行、
それも2つの大銀行が合併した日本一のメガバンクだったからだ。

居酒屋
「そう来ましたか。」と山下。
「そう来ましたよ。」と真介。

実は山下は、以前わかば銀行に勤めていたのだ。
山下は帝都銀行とあかつき銀行合併後に銀行を辞め、
今は不動産投資会社に務めている。

今回の依頼は、合併であぶれた人が集められた為替電信部からの
リストラ。

居酒屋
「この職務経歴書を見て、こいつが実際出来るバンカーかどうか、
 見極めてほしいんだけど。」
真介はそう言い、個人情報を塗りつぶした書類を見せる。
「リストラ候補の人間なんだよな。」
「そう。」
「出来るバンカーなら辞めさせない様に手回しでもすんのか?」
「その逆、だね。」
「逆?」
「出来るバンカーなら何としてでもクビにする。」
「何言ってんだ?お前。
 お前が何企んでるか知らねーけどさ、
 今のわかば銀行は、あかつき銀行出身ってだけで、
 冷や飯食わされてる連中が沢山いるんだよ。」

面接室
今回真介が担当する池田昌男(青木崇高)は、
実は真介の高校時代の同級生だった。
真介の顔を見た池田は驚き・・・。

関東建材業協会事務局
陽子は会社を辞めたことを石綿事務局長に報告に行く。
石綿に今後どうするのかと聞かれた陽子、
「暫くはのんびりして、とか思ってたんですけど
 ダメですね、貧乏性っていうか。
 何か落ち着かない感じで。
 早速来週から就職活動しようかなって。」
「うん。でも芹沢さん優秀だから、引く手あまたでしょ?」
「どうでしょうね。
 でも、自分を生かせる環境で、仕事が出来るとこ、
 しっかり探していくつもりです。」
「うん。」

夜、タイ料理店
「僕に出来ることなら、何でも協力しますからね。」と真介。
「クビ切り会社の人間が、就職の世話まで面倒みてくれるんだ。」
「アフターサービス万全ですから。」
「洒落になってないよそれ。」
「ていうか恋人候補なんだから何でも協力するのが
 当たり前じゃないですか。」
「・・・でもさ、実際面白いかもね。」
「え?」
「クビ切り会社が、就職まで世話してくれたらさ。」
「確かに、そうですよね。」
「でもさ、何でいつもエスニックなの?食事っていうと。」
「そうでしたっけ?」
「ま、いいけどさ。」
「昔の彼女の影響で。」
「・・・あっそうですか。」
「妬きました?」
「・・・まあ、微妙にね。」
「本当に?本当に妬いてくれてるんですか?」
「でもこうやって、村上さんの話を聞いていると、
 首切るほうも大変なんだなってよくわかるわ。」
「話変えないで。
 ていうか、村上さんはやめましょうよ。
 ね、僕に可能性はないですかね。」
「・・・仕事の話をしている時の村上さん、素敵よ。すごく!」
嬉しそうな真介。
「口説いてる時の村上さんはほーんと、薄っぺらい男って感じ。」
「・・・」
「ちょっとお化粧室行ってきまーす。」
「・・・なんで伝わらないかなー、この思い。
 はぁっ。」

(回想・5年前)
「まーたため息ついて。
 元気出して下さい。」と順子。
「情けないです、本当に。」
「泣き言はダメですよ。」
「28ですよ、自分。
 それでリストラって・・・。
 うわっ!!」
「パクチーダメでした?」
「子供の頃遊んだ原っぱの味がします。」
「それなら違うお店にすれば良かったね。」

帰り道
「はーあ。新しい仕事見つかるかな。
 もうダメかもしれないな。」
「村上さん。」
「はい。」
「うちのお店の商品ってどう思います?」
「え?それは、素敵な商品ばっかですよ。
 これはお世辞抜きに。」
「でも、うちの雑貨って、リサイクルじゃないですか。」
「はい。」
「いわば、最初の持ち主から、リストラされちゃったものたちで。」
「・・・」
「そのまんまじゃ流石にダメかもしれないけど、
 ちょっと、手を掛けて変身が出来たら、
 新品の雑貨と比べても、遜色ないと思いません?」
「・・・」
「ね!」
「はい。」
「負けないで、頑張って下さい。」

昼間、店の商品の手入れをする順子。
「順子さん!」真介が声を掛ける。

神社を散歩する二人。
「どう思いますか?その会社。」
「どうって、リストラ専門会社?」
「えげつないとか、思いませんか?」
「この際、私の意見はどうでもいいんじゃないんですか?」
「どうでもよくありません!」
「え?」
「だって、ろくでもない仕事をしている男なんか、
 付き合いたくないでしょう?」
「は?」
「もし俺が、そのリストラ会社に勤めるってことがネックで、
 お付き合いが出来ないんじゃ、嫌なんで。」
「お付き合いって?」
「俺、順子さんとお付き合いしたいと思っています。」
「・・・何言ってるんですか。冗談でしょ?」
「冗談なんかじゃないです。」
「・・・村上さんこれ、何だかわかる?」
「めがね、ですよね。」
「うん、分かりにくいかもしれないけど、
 老眼も入ってるの。」
「それが何ですか?」
「おばさんからかうの、やめて下さい。」
「年は関係ないです。俺は、。順子さんと一緒にいたい。
 恋人同士になりたい。
 だから、順子さんが疑問に思う会社には入れません!」
「・・・困ったなぁ。」

その神社で手を合わせる男がいた。
池田だ。

File 6 池田昌男

池田は婚約指輪を手に祈り・・・。

レストラン
婚約指輪を差し出す池田。
「開けてみて。」
恋人の彰子(遠藤久美子)が箱を開ける。
「嘘!」
「僕と、結婚して下さい。」
「嬉しい!
 本当に嬉しい。
 でも・・・まだダメ。」
「え?」
「まだマー君とは結婚出来ない。」
「どうして?」
「・・・誤解しないで聞いてね。
 マー君が銀行に勤めたのは、やりたい仕事があるからだって
 言ってたよね。
 マー君さ、今の仕事にきちんと納得してる?」
「え・・」
「私ね、自分がしている仕事に、きちんと納得している人じゃないと、
 ずっと一緒にはやっていけないと思うんだ。」
「どういうこと?」
「サラリーマンやってると、我慢しなくちゃいけないことも
 沢山あるだろうし、それこそ、人生の浮き沈みっていうか、
 いい時もあれば、悪い時もあると思うのね。
 でも、納得している仕事をしていれば、
 その、例えどんなに仕事がキツくても、
 自分のしていることに、誇りみたいなものを持つことが
 出来ると思うし。
 仕事に不満抱えながら、グダグダになっている人とか、
 人生をはからんじゃっている人とかいるでしょ?
 そうい人が旦那さんじゃ、絶対嫌だもん。」
「・・・わかった。
 本当に、やりたい仕事を出来るように、俺がんばるわ。」
「うん!」

それから池田は張り切って営業に回りだす。

「毎日が充実していた。
 支店営業部での仕事に全力を傾け、
 次第に結果も上向き、
 6ヶ月間トップの営業成績を残す事が出来た。
 そして、支店長から内示の呼び出しがあった。
 希望の部署は、本店、企業調査。」


池田の企業調査部への栄転が決まり、自分のことのように
喜ぶ彰子。
「企業調査部は、うちの銀行じゃエリートコースだからね!
 アッコを幸せに出来ると思う。
 じゃなくて、幸せにする。」
「うん。」
「俺と、結婚して下さい!」
「よろしくお願いします!」

2010年
池田は為替電信部に飛ばされていた。
そして、リストラ対象者に。

面接室
「奥さんに現場をどの程度教えていますか?」と真介。
「そんなこと関係ありますか?」
「もしかして、為替電信部へ異動になったこと、
 仰ってないんですね?」
「・・・」
「もう1年になりますよね?異動されて。」
「・・はい。だから何ですか?」
「奥さんにこの先ずっと隠していくんですか?
 この面接を受けたことも、」
「関係ないでしょう?村上さんには。」
「もちろん、奥さんに隠し通して、今の部署に今後も
 いらっしゃることも、一つの生き方ですが。」
「・・・やめろと仰るんですか?」
「そうは申しませんが、前向きに考えるのはいかがでしょう。」
「・・・ちょっと、トイレいいですか?」
池田が部屋を出ていく。

「何なんですか?村上さん。」と美代子。
「うん?何?」
「今までこんなことなかったじゃないですか。」
「そうかな。」
「立ち入りすぎですよ、プライベートまで。」
「・・・今の人さ、家のローンも大分残ってるし、
 多少給料が減っても、日本一のメガバンクだから、
 他よりは全然マシだって思っているよね。」
「絶対リストラには応じないって感じですね。」
「そうだね。 
 でも、絶対落としてみせる。」
「・・・だから、何でそんなに意地になっているんですか?」
「だってあの男・・・高校時代のクラスメートなんだ。」

トイレ
「何でよりによって・・。
 クソッ!!」

面接室
「仲良かったんですか?」
「全然。
 今回プロフィール見て、どっかで見覚えあるなと思ったら、
 出身校が同じでさ。」
「この前話してた、不動産投資会社の人・・」
「山下隆志。」
「その山下さんも同じ高校なんですよね?」
「そう。
 俺たちは落ちこぼれで、池田昌男は、学校一の、優等生。」
「じゃ、かつての落ちこぼれに、優等生がリストラされてるって
 ことですか?」
「ああ。」

居酒屋
「この職務経歴書、池田昌男だよな?高校一緒だった。」と山下。
「バレちゃった?」
「バレないわけないだろ?ここまでの資料俺に渡しておいて。
 それで?もう面接したのか?」
「予想通り。
 で、隆志の結論は?池田のバンカーとしての評価。」
「ヤバイぞ池田。これ見ろ。」
「支店時代の営業成績。」
「徐々に実績伸ばして、最後の半年はその若さで毎月トップ。」
「それで、希望が通って本店の企業調査部か。」
「見事なまでの栄転。
 しかもそれ、あかつきの幹部候補コースだよ。
 それ、驚くなよ。
 池田が担当した企業な、今絶好調なところばかりなんだよ。」
「それってどういうこと?」
「企業調査部っていうのはさ、支店から回されてきた
 融資案件に対して綿密な調査をして、
 企業の再構築を提案する部署なんだよ。」
「じゃあ、今まで担当してきた企業が今絶好調ってことは、」
「・・・池田は半端なく優秀なバンカーだ。」
「・・・な、そんな男を飼い殺して、リストラしようとしてる
 会社って何なんだよ。」
「そうなんだよ。
 いくらあかつき出身者が悲惨だからってここまでの人材を
 閑職に追いやるには絶対理由があると思ってな、
 昔の人脈使ってちょっと調べたんだけどさ。」
「やっぱり何か原因あった?」
「合併の一年後、つまり、今の為替電信部に追いやられる
 直前のことだ。」

一年前、わかば銀行本店 企業調査部
コンビニエンスチェーン・ロマンスの経営改善計画の説明をする
上司。
「ちょっと待ってください!
 ロマンス担当池田です。
 自分があげたレポートでは、パートの人員削減で
 黒字に転じるという結論付けしていませんが。」と池田。
「え?」
「中間管理職の圧縮を、最重要課題としています。」
「・・・」

「何を言ってるんだ。もう間に合わないだろ!」
「そういう問題ですか?」
「どっちみち、融資は決定済みだ!」
「いや、ちょっと待ってください。
 自分はもっと根本論を言っているんです。
 このままいくと企業にとって切らなくていい人材まで
 切る事になるんですよ?
 パートの人たちも生活ってもんがあるでしょ?」
「とにかく、間に合わない段階なんだよ!」
「間に合わないのは作業としてでしょう?
 我々は作業をしているんじゃない!仕事をしているんだ!
 そんなこともわからないのか!?」
「何だと?」
「課長はこの仕事をやるべき人間ではありません。
 バンカーとして失格です。さっさと辞めてください!」

居酒屋
「そん時の上司が帝都出身。
 これが、池田の、運命の分かれ道だった。」
「しょっぱいよ!マジでしょっぱいよ!」
「しかし世の中こんな理不尽がまかり通るようじゃもう、
 心もズタズタになるわな。」
「・・・」

面接室
「やはり私はこのリストラには納得がいきません。
 今の職場で何のミスもしていません。
 クビになるいわれは何一つないと思います。」
「クビにはなりません。
 あくまで、希望退職者を募っているだけです。」
「なら退職は希望しません。」
「この先のバンカー人生が、こんなに真っ暗なのにですか?」
「・・・村上さんね、何で部外者のあなたにそんなこと言われなきゃ
 いけないんですか!!」
「部外者でも一目瞭然の事実ですから、これは。」
「何?」
「這い上がるチャンスもないのに、今のすさんだ心のまま、
 満足のいかない仕事続けて、
 池田さんは納得しているんですか?この現場を。」
「・・・お言葉ですけども、」
「何でしょう。」
「世の中に、本当に思い通りの、やりたい仕事が出来ている人なんて、
 ごく僅かです。
 みんな我慢して、それでも頑張って仕事して、
 そうやって給料を頂いて、
 家族を養っている。
 勤め人とはそういうものでしょう?」
その言葉に笑い出す真介。
「何がおかしいんです?」
「そんな一般論聞いてませんよ。
 世間がどうとかみんながどうとか。
 私は、この現場に納得しているのかと、
 あなたに聞いたんです!」
「・・・
 勘違いされているかもしれませんが、
 私は今の、仕事に、満足しています。」
「何でそんな嘘までついて、」
「嘘じゃない!!
 ・・・」
「このまま行っても、今日ここで結論は・・・。」
「やめませんから私は。」
「では、この希望退職制度の資料をよくご覧頂いて、
 ご家族の方とも、きちんと相談して下さい。
 次回の面接は一週間後になります。
 それからこれ。
 何かあれば、ここにご連絡下さい。」
自分の名刺を差し出す真介。
「・・・」

池田家
「ただいま!アンは寝た?」
「とっくに寝てる。」
「じゃーん!」
「何これ!」
「恵比寿で有名なブラウニー屋さん。
 まえにアッコが行きたがってた。」
「え?わざわざ寄ってきてくれたの?」
「うん。」
「ありがとう!」
「疲れた。腹ペッコペコだよ。
 お!この匂いは。」
「今夜はね、カレーだよ。」
「カレー!
 あぶねえ!俺昼カレー食うところだった。」
「え?朝言ったでしょ、今夜はカレーにするからねって。」
「言ったっけ?」
「お風呂沸いてるけどどうする?先入っちゃう?」
「うん、じゃあサクっと入っちゃう。」
「じゃ、準備しておくね。」
「はい。頼みます!」

浴槽に浸かる池田。
「・・・ダメだ。言えるわけない・・・。」

事務所で仕事をする真介は、平山の、
「絶対許さない!」
という言葉を思い出していて・・・。

公園
希望退職募集要項をぼーっと見つめる池田。

隣りのベンチに携帯電話で誰かと話す女性が座る。
陽子だ。
「ダメだったー。もう面接室入った瞬間から絶対ダメって空気
 満載でさ。
 ねー泰子聞いてんの?
 これで当初ピックアップしてた会社全部断られちゃった。
 ちょっと舐めてたっていうか、自意識過剰だったか。
 あー、なんで又就職出来るって確信持ってたんだろ。
 調子に乗ってたっていうか。
 間抜けすぎだー。
 ちょっとー、どうしようー。
 うん。」

陽子の会話に聞き入る池田・・・。

面接室
「結局、ご家族には?」と真介。
「話してません。」
「なぜですか。」
「・・・」
「池田さん。
 あなたは大変優秀なバンカーだと思います。
 ですから、今の状況では、間違いなくプライドが許さないはずです。」
「それじゃあ、これから辞めて、再就職したとして、
 満足出来るような職業に就けると思いますか?」
「それは・・・わかりません。」
「じゃああなたが言っていることは矛盾しているじゃないですか。 
 辞めてもっと酷い状況になることだって考えられるんですから。」
「・・・そうですね。」
「じゃあ、じゃあ今のままでもいいと思う自分だって、
 間違いじゃないでしょう?」
「間違いじゃないですね。
 でも、あなたの人生とこうして向き合った私は、
 絶対辞めたほうがいいと思います。」
「これは俺の人生なんだ。
 無責任なこと言うなよ!」
「・・・」
「・・・一つ、聞きたいことがある。」
「何でしょう。」
「リストラ対象者の中で、順位付けってされてるはずだよな?
 俺はどの辺にいるのか教えてほしい。」
「・・・当たり前ですが、教える事は出来ません。」
「それ位いいじゃないか。」
「ダメです!」
「村上!」
「・・・昔のよしみで、えこひいきしろと?」
「どう取ってもいいよ。教えてくれよ!」
「池田さんが私の立場だったらどうします?」
「・・・」
「親しいとか親しくないとかそういう問題じゃありません!
 仮に我々が、もっと親しい間柄だったとして、
 ここで内情をペラペラ喋ると思いますか?」
「・・・」
「・・・聞きたいことがあるなら、担当面接官の俺じゃなく、
 昔の知り合いの俺に聞け。」
「・・・」
「前に渡しただろ?名刺。無くしたか?
 そこに書いてある携帯は仕事専用ってわけじゃない。」
「・・・」

池田が帰ったあと、コーヒーを真介に入れる美代子。
「明らかに、違反行為ですね。
 でも、いいと思います。」
「え?」
「規則を守って池田さんとあくまでドライに接してたら、
 それは村上さんにとっては単なる、作業になっちゃうっていうか。」

真介の携帯が鳴る。
「もしもし。」
「池田です。さっきの件だけど。」
「こっちはまだ仕事中。」
「じゃあ何時に連絡すればいい。」
「せっかくだから、酒でも飲みながらってどうだ?」
「え?」
「何なら俺は今夜でもいいぞ。
 新宿でよければ、店押さえておくけど。」
「・・・ああ、任せるよ。
 ああ。」
電話を切ったあと、池田は呟く。
「何様だよっ。もったいぶりやがって。」

夜、新宿の居酒屋
「よう!覚えてっか?俺の事。」と山下。
「・・・」
「や、や、や、」
「山下?」と池田。
「正解!
 久しぶりだな。ちょっと痩せたか?」
「まずは注文しちゃおうか。
 池田は生でいいか?」と真介。
「どういうつもりだよ、村上。」
「え?」
「人をバカにすんのもいい加減にしろよ。
 俺の一生が掛かっている話すんのに、
 何で昔の友達呼ぶ必要があるんだよ。
 二人であざ笑うために俺をここに呼び出したのか!?」
「まーまー、落ち着けよ、池田。」と山下。
「酒飲む前にするか。大事な話は。」と真介。
「だな。」と山下。
「実は、山下、帝都銀行にいたんだよ。」
「・・・」
「冗談抜きに、お前はすげーバンカーだよ。
 昔の俺の知り合いも、お前の名前知らないヤツいなかった。
 最高のスキルを持ちながら、最低の仕打ちを食らったって。」
「・・・」
「でまあ、本題に入るとな、今日俺はお前をヘッドハンティング
 しに来た。」
「え!?」
「今俺は、不動産投資の会社に勤めてる。
 投資家から金を集めて資産価値の上がりそうな不動産を買い、
 ある時は改築し、ある時はテナント探し、
 ある時はその町を活性化させる仕事だ。」
「バリューエステートリミテッド、聞いたことあるあろ?」と真介。
「・・ああ。雑誌で見た事ある。」
「隆志も3年前ヘッドハンティングされてるんだよ。」
「うちらの仕事は、資産価値のある不動産かどうかを見抜く、
 そしてその価値をあげるために作戦を立てる。
 企業調査部でやっていたことと、根本的には似たような仕事だよな?」
「確かに。」
「仕事は相当ハードだし、結果出せなきゃ一年でクビだ。
 でもその代わり、死にもの狂いで働いて結果出せりゃ、
 仕事はどんどん大きくなる。」
「・・・」
「きっちり結果を求められる仕事だから、
 常に人材不足ってのが現場でな。
 全員中途採用。学歴もバラバラ。
 ただ共通してんのはね、みんな、鼻血出るんじゃないかってくらい、
 死に物狂いで働いてることな。
 今の池田君みたいな、何とかわかばにしがみつこうっていう、
 へなちょこ根性のまんまじゃ、ま、間違いなくやっていけない
 だろうよ。」
「・・・」
「来週の最終の面接を乗り切ったら、
 わかば銀行はお前をクビにすることは出来ない。
 つまり、条件はともあれ、現段階では銀行に残れるって
 ことになる。」
「・・・」
「隆志の誘いに乗るか、銀行に残るか、
 あとはお前次第だ。」
「・・・」

その帰り、池田はわかば銀行を見つめ・・・。

池田家
「・・・アッコ。」
「うん?」
「ちょっと、大事な話があるんだけど、いいかな。」
「・・・ついに限界がきたか。」
「え?」
「銀行辞めたいんでしょ。」
「いや・・え・・なんで?」
「私だってバカじゃない。
 合併してからさ、仕事の話しなくなったでしょ。
 昔はさ、自慢話ばっかりしてたのに。
 いつも帰ってきては明るく振舞ってたけど、
 私の見てないところではため息ばっかりついてた。」
「・・・」
「一年くらい前、部署変わったでしょ。」
「・・・」
「わかるんだよ、それくらい。」
「・・・ごめん。黙ってて。」
「・・・」
「今日さ、飲みに行ってた高校のときの友達って、
 偶然会ったわけじゃなくて、面接官だったんだ。」
「面接官って何の?」
「リストラの。」
「・・・」
「情けなくてさ。かっこ悪くて言えなかった。
 ごめん。」
「そんな大事な話!」
「でもね、来週の最終面接で、辞めないって答え出せば、
 辞めなくて済むんだ。これは本当。」
「・・・でも辞めたいんだ。」
「・・・正直言うと、ここ1年、ずっと考えててね。
 俺にはもう、どうしても仕事をして許せないことがあって。
 それで上司とケンカして。
 それで今の部署に、飛ばされて。
 それでも頑張ろうと思ったんだけど・・・
 何度も、辞めたいと思って・・・
 でも、どうしてもアッコには、相談出来なかった。」
「・・・どうして?」
「アッコ、結婚前に言ったよね?
 自分の仕事に、きちんと納得している人じゃないと、
 ずっと一緒にはやっていけないって。
 俺も本当にそう思う。
 けど今の俺はさ、ただ辞めたいだけで・・・。
 うん。
 だからアッコに言えなかった。
 ごめん。」
「・・・」
「実はさ、今日会ってたその友達が、ここに勤めてて。」
「何の会社?」
「不動産投資の会社。
 仕事は半端なくきついらしいんだけど、
 俺ここで働きたいと思ってる。
 アッコが賛成してくれるんだったら、
 俺はやってみたい。」
「ダメだって言ったら?」
「・・・それでも、やりたい。」
「・・・その答えじゃダメだよ。」
「・・・もし、転職しても上手くいかなくて、
 最悪どうにもならなくなったら・・・
 俺の生命保険1億入ってるよな。
 ・・・何があってもアッコにだけは絶対苦労させない
 ようにする。」
「・・・マー君・・
 そんなこと絶対にさせないから!
 いざとなったらさ、ここ売ればいいんだし。
 私もまた働く。」
「アッコ・・・」
池田を抱きしめる彰子。
「・・・私の言葉が、マー君を縛りつけちゃったんだよね。
 マー君・・・今まで、ずっと辛かったよね・・。」
「・・・」
「ありがとう、私たちの為に、いつもいつも笑顔でいてくれて。」
二人は抱きしめあい、涙を流し・・・
「本当にありがとう。
 マー君はさ、最高の男だよ。」
そして微笑みあう。

日本ヒューマンリアクト
「わかば銀行の、池田昌男。
 よく、手心加えなかったな。
 昔の友達だろ?」と社長。
「え・・はい。」
「この仕事をしている以上、友達との付き合い方には注意しろ。
 軽い気持ちで面倒見ると、一生付き合わなくてはいけなくなる。 
 ま、そういう意味では、かつて面接を担当した人間との
 接触や付き合いは、言語道断だからな。」
「・・・」

陽子のマンション
新聞を読みながらため息の陽子。
「ねー、仕事見つからないならさ、
 この際実家戻ったらどうよ。」と泰子。
「は?」
「お母さんもお父さんも、喜ぶと思うよ。」
「あ、そのことなんだけどさ。
 二人、こっちに住まないかな。」
「東京呼ぶってこと?」
「面倒見るにも鹿児島と東京行ったり来たりは現実的じゃないし。」
「ありだね。ありだけど、娘二人がバイトとプー太郎で、
 親も年金暮らしとなると、
 最終的に残された誰かが、孤独死だろうね・・・。」
「やめてよ!そういうこと言うの。」
「マジで心配するなっつーの。」
「リアルに、ここに横たわる泰子とミッキーの腐乱死体
 想像しちゃったわよ。」
「私かよっ。」
「だってあんたらが一番だらしない生活送ってんでしょ。」
「あのねお姉さん。
 夢を見ながらバイトしてる人間バカにしちゃいけねーっすよ。」
「そう、私ら夢でお腹一杯だから、贅沢しなくたっていいの。
 お金なくても、食べれて住むとこあればそれだけでいいの。」
「それがなくて二人して、無職の私にご飯たかりに来てるんでしょ?」
「今日はお邪魔してますけど、仕事見つからないからって、
 落ち込む必要ないんじゃない?
 って新曲考えたんで、聞いてください!
 ♪」
「うるさいっ!」
「すみません。」
「でも冗談抜きに真面目な話語っちゃうとさ、
 テレビが今どきのバカでかいのじゃないと嫌なのは、
 バカでかいの一回持ったことがある人でさ。
 みんながしがみついてるのは、現代の最先端の生活レベル、
 それはつまり、周りに対する見栄ってことじゃない?
 人間楽しく生きていくのに、そんなにお金必要ないっすよ、
 マジで。」
「俺たち音楽出来れば、本当に満足ですから。
 ま、それで飯が食えればもっと最高なんですけどね。」
「そうそう。そんで、ビッグになって、外車乗り回して、
 プール付きの一戸建て買って、
 最終的にはみんなを養ってあげるから心配しなくていいよ、
 ねー!」
「っていうか結局あんたらもそこ求めてんじゃーん。」
「何が?」
「・・・ったく。 
 やっぱ仕事なんとかしないとなー。」

バーで会う洋子と真介。
「実は僕もリストラされてるんです。」
「あ!そうだったの!」
「しかも、首切り会社の人間にクビ切られて、
 そこの社長にスカウトされて、再就職出来たんです。」
「つまり、それが今の会社。」
「そうなんです。ものすごいめぐり合わせですよね。」
「前の会社じゃどんな仕事してたの?」
「小さな広告代理店です。そこで営業やってました。」
「営業?意外!」
「僕がいた代理店なんかは本当に小さいんで、
 とにかく泥臭い営業営業で、
 小口の仕事バンバン取ってこなきゃいけなくて。」
「大変だった?」
「大変でしたね。その上、上司が最悪で。
 でもその上司に怒鳴られるんですよ。
 お前こんな成績でいつまでも会社にいられると思うなよって。」
「まーどこも一緒だね。」
「でもね、頑張っていい成績残して、会社に残っているのが
 その上司なわけでしょ?
 どこかで、プツっと切れちゃって。
 会社に損を与えない程度の成績だけ残して、
 あとは仕事しないで、ぷらぷら遊びまわったりして。」
「最低。」
「最低だったんで、リストラされました。」
「でも今の会社、よく拾ってくれたよね。」
「ええ。」

(回想)
「前の会社では、仕事に対するその考え方は、
 NGだ。
 だが、手を抜かなければ、うちの会社では、
 それ位仕事にドライな方がいい。」
社長は真介にそう言った。
(回想終わり)

夜道を歩く二人。
「その言葉の意味を、今身を持って痛感しています。
 仕事に夢中になればなるほど、ドライになりきれなく
 なってるっていうか。」
「・・・もしかして、迷ってるの?今の仕事に。」
「・・・正直、迷ってます。」
「そっか。
 ・・・でもね、やっぱ辛いわ、このご時世就職活動は。」
「上手くいってないですか?」
「・・・ね!小腹減ってない?」
「行きますか。」
「うん。」

二人は中華料理店へ。
「私、鹿児島に帰ることも考えていてね。」
「え?実家に戻るってことですか?」

厨房では食器を落とした新人らしき人物が怒られていた。
なんと怒られていたのは平山だった。
「出ましょう!」
「はい!」
二人は慌てて店を出ようとするが、平山に見つかってしまい・・・。

(ゲスト:青木崇高 遠藤久美子)


妻には不安を隠して見せる笑顔。
でも風呂に入りながらの池田はとてもつらそうで・・。

そんな夫の思いを、妻はちゃんと見抜いていた。
まだ若いけれど、お互いを思いやる、素敵な夫婦でした。
きっと彰子はこれからも夫をしっかりサポートして
いくでしょうね。

人の生き方に真剣に向きあう真介。
だからこそ、一番よい答えが出せたのだと思いました。

その真介も、今の仕事に迷いがあるんですね。
人の痛みがわかる真介だからこそ、
人と向きあうことでドライになりきれず・・・。

そして、優秀な陽子でさえ仕事が決まらないご時世。
やりたい仕事と収入の壁。
今の仕事を更新するかどうか、私自身迷っているので、
彼らがどんな答えを見つけ出すのか気になります。


来週はオリンピック放送の為お休み。
次回は20日(土)です。



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主題歌
B002MHA3YWTomorrow Waltz(初回生産限定盤)(DVD付)
久保田利伸
SE 2010-01-27

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原作
4101329710君たちに明日はない (新潮文庫)
新潮社 2007-09-28

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4101329729借金取りの王子―君たちに明日はない〈2〉 (新潮文庫)
新潮社 2009-10-28

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4104750034張り込み姫 君たちに明日はない 3
新潮社 2010-01-15

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4408171611君たちに明日はない (1) (マンサンコミックス)
笠原 倫
実業之日本社 2008-12-25

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4408171751君たちに明日はない 2 (マンサンコミックス)
笠原 倫
実業之日本社 2009-04-27

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B00322P8VO君たちに明日はない (坂口憲二 主演) [DVD]


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キャスト
村上真介:坂口憲二(日本ヒューマンリアクト社員)
芹沢陽子:田中美佐子(森松ハウス、課長代理)
芹沢泰子:須藤理彩
山下隆志:北村有起哉
川田美代子:吉田桂子
順子:麻生祐未
高橋栄一郎: 堺正章(リストラ請負会社・日本ヒューマンリアクト社長)

平山和明:村田雄浩
和久井:小磯勝弥
人事部長:谷本一
部長:須永慶
社長:伊藤延広
得意先社長:田口主将
男:徳井優
重役:石山雄大
老婦:森康子

スタッフ
脚本:宅間孝行
音楽:松本晃彦



坂口憲二さんの主な出演作品




この記事へのコメント
ちーずさんこんばんは、記事によると自分の編集が悪かったのか時間延長がきかなかったのかラストまで撮れれていませんでした!

人の人生を左右する仕事の真介、陽子との会話にヒントを得てリストラのあとのリカバリーをする真介に共感がもてました!

池田の審査をする真介のクールさ友人として社内規定を破ったこと真介の優しさと捕えるあしすたんと女性、転属した事を知っていても旦那さんの口からの真実に涙しこれからの人生を一緒に生きていく覚悟に涙しました!
Posted by けた at 2010年02月08日 20:15
私も人並みに、今の仕事に迷いがあります。
でも転職できる年齢でもないし、特別な資格もない。
働くってなんだろう、会社って何だろう、と考えさせられた内容でした。
うれしかったのは、やはり「友情」ですね。
それも甘っちょろいものでなく、優秀な昔の知り合いに対する、敬意をもった男の友情。

先日○十年ぶりの同級会に出席したので、感慨もひとしおでした。
「昔の彼」を知っているからこそ、信頼してヘッドハンティングもできるのでしょう。
「お前が、ここで終わるなんて俺たちもくやしいよ」と。

私も「お前は今の仕事に絶対向いてる。辞めたいなんて言うなよ。」と○十年ぶりに会った旧友に励まされたのです。
Posted by やすこ at 2010年02月13日 10:17
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